カスピ海乳酸菌」による寿命延長メカニズムを解明
Spectrum誌に論文掲載】「カスピ海乳酸菌」による寿命延長メカニズムを解明 生体防御能の向上による、最終糖化産物(AGEs)抑制の可能性
フジッコ株式会社(本社:神戸市中央区/代表取締役社長執行役員:福井正一)と大阪市立大学名誉教授 西川禎一先生(現 帝塚山学院大学
人間科学部長)らの共同研究グループによる、 「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延伸に関する研究が、 微生物学の専門誌『Microbiology
Spectrum』に掲載されました(オープンアクセス:
自家製ヨーグルトを食べるジョージアの男性
「カスピ海乳酸菌」は、 ヨーロッパ東部の黒海とカスピ海に囲まれたコーカサス地方のジョージアを起源とする乳酸菌です。 この地域は長寿地域として知られており、
100歳を超えるお年寄り「センチナリアン」が元気に暮らしています。 センチナリアンが元気に暮らす秘訣のひとつがヨーグルトであると言われており、
長寿食文化の研究が専門の家森幸男先生(現 武庫川女子大学国際健康開発研究所所長)がWHOの調査研究(CARDIAC
Study)で現地を訪れた時にヨーグルトを持ち帰りました。 このヨーグルトを起源とするのが「カスピ海乳酸菌」です。
今回の研究では、 「カスピ海乳酸菌」が生物の老化に与える影響を調べるため、
老化研究のモデル動物である線虫に「カスピ海乳酸菌」を与えて生体に与える影響を確認しました。 線虫は体長1 mm、 寿命3週間ほどの生物ですが、
ヒトとの相同性を示す遺伝子を多く持ち、 消化器系などの器官構造があることから医学、 薬学的な研究に用いられています。
これまでに「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延伸、 自発運動性(体力)と化学走性(知覚神経機能)の老化抑制を確かめていました。 今回、
本研究を論文にまとめるにあたり、 特に寿命が延長するメカニズムを精査しました。 その結果、
「カスピ海乳酸菌」により酸化ストレスから体を守る生体防御能が向上すること、
酸化ストレスや老化の指標と考えられている最終糖化産物(AGEs)の蓄積が抑制される可能性が示唆されました。 よって、
「カスピ海乳酸菌」は線虫の生体防御能を高める事により老化を遅延させ、 その結果寿命を延長させたと考えられます。 また、 線虫の自発運動性は健康寿命を、
化学走性は知覚能力を反映すると考えられ、 これらを向上させる「カスピ海乳酸菌」は寿命のみならず、 健康寿命も延長できる可能性があると期待されます。
* 研究の詳細
「カスピ海乳酸菌」(Lactococcus cremoris subsp. cremorisFC)が線虫(Caenorhabditis elegans
)の寿命にあたえる影響とそのメカニズムを明らかにする事を目的とした。
「カスピ海乳酸菌」はM17L培地で培養して試験に用いた。 「カスピ海乳酸菌」の生菌体を給餌した線虫は対照飼料を給餌した場合に比べて生存率が延長した(図1)。
さらに「カスピ海乳酸菌」の加熱死菌体や、 代謝産物である粘り成分EPS(菌体外多糖)を与えた場合でも生存率の延長が観察された。
以降の実験では「カスピ海乳酸菌」の生菌体を用い、 線虫の老化度や寿命延長メカニズムについて調べた。
「カスピ海乳酸菌」を与えると線虫の活発度を示す自発運動度が向上し、 知覚能力の指標である化学走性指数が向上した。
さらに「カスピ海乳酸菌」を与えた線虫は病原菌(サルモネラ菌、 黄色ブドウ球菌)感染に耐性を示し、 対照飼料を与えた線虫よりも生存率が延長した。
線虫の加齢に伴い老化物質AGEsによる自家蛍光が増加したが、 「カスピ海乳酸菌」を与えた線虫では自家蛍光が抑制されていた。
これらの作用メカニズムを調べるために寿命関連遺伝子を変異させた線虫を用いてさらに検討を行い、
酸化ストレス関連遺伝子が「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延伸作用に関与していることが明らかになった。 また、
マウスのマクロファージ細胞への「カスピ海乳酸菌」の接種によって、 酸化ストレス障害に対する保護作用を担うヘムオキシゲナーゼ-1のmRNA発現が増加したことから、
「カスピ海乳酸菌」は生体の酸化ストレス抵抗性を高める事が明らかになった。
これらの結果から、 「カスピ海乳酸菌」は線虫の酸化ストレス抵抗性を高める事により、 AGEsの蓄積を抑制し、 その結果寿命の延長や自発運動性(健康寿命)、
化学走性指数(知覚能力)を向上させると考えられた(図2)。
図1. 「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延長作用 , ***p<0.001で有意差あり(ログランク検定) 対照飼料投与群、
n = 79;「カスピ海乳酸菌」投与群、
n = 85
図1. 「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延長作用 , ***p<0.001で有意差あり(ログランク検定) 対照飼料投与群、 n =
79;「カスピ海乳酸菌」投与群、 n = 85
図2. 「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延長メカニズム
図2. 「カスピ海乳酸菌」による線虫の寿命延長メカニズム
* 論文掲載情報
タイトル :Prolonged Lifespan, Improved Perception, and Enhanced Host Defense of
Caenorhabditis elegansbyLactococcus cremoris subsp. cremoris
(クレモリス乳酸菌による線虫の寿命延長、 知覚の向上、 宿主防御力の強化)
掲載誌 :Microbiology Spectrum
掲載先URL:https://doi.org/10.1128/spectrum.00454-21
https://doi.org/10.1128/spectrum.00454-21
(2022年5月16日公開、 オープンアクセス)
著者名 :Tomomi Komura a*, Asami Takemoto a, Hideki Kosaka b, Toshio Suzuki b,
Yoshikazu Nishikawa c§
(小村智美a*、 竹元亜佐美a、 小阪英樹b、 鈴木利雄b、 西川禎一c§)
a 奈良女子大学 生活環境学部
b フジッコ株式会社
c 大阪市立大学 大学院生活科学研究科
* 現 兵庫県立大学 環境人間学部
§ 現 帝塚山学院大学 人間科学部
* お問い合わせ先
フジッコ株式会社
担当者:イノベーションセンター 機能性研究チーム 後藤 弥生
責任者:イノベーションセンター 部長 鈴木 利雄
TEL:078-303-5385
ホームページアドレス:
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