療現場・当事者の視点に基づく、社会・医療において求められる肥満症対策に関する提言を公表(2024年4月8日)

「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策の実装を目指して」

新たな肥満症治療薬の登場に伴い、肥満症(※)への注目が集まっています。肥満症は、適切な医療介入が必要な疾患ですが、患者の医療への接続、受診においては多様な課題が存在しています。そこで、日本医療政策機構は、医療現場および肥満症当事者の視点に基づいて求められる肥満症対策の実装を目指し、以下のポイントを踏まえ、提言します。

〈提言のポイント〉

・適切な食事、適度な運動への習慣付けを通じた肥満予防

・病診連携(地域かかりつけ医から専門医への紹介)の強化および肥満症専門機関での集学的な体制構築等の医療提供体制の充実

・肥満・肥満症の人に対するスティグマ(らく印、差別や偏見)の解消

・医療介入が必要な肥満症患者が適切なタイミングで専門医療機関を受診し、治療を継続できる環境づくり

※肥満症は「BMI25以上で肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」と定義されている。

特定非営利活動法人日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy

Institute)(事務局:東京都千代田区、代表理事:黒川清)は政策提言書「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策の実装を目指して」を公表いたしました。

世界の肥満人口は10億人を超え、肥満を起因する慢性疾患患者数が爆発的に増加しており、日本でも喫緊の課題となっています。特に、肥満症は多様な健康障害を合併する疾患であることから、適切な医療介入が求められます。しかし、肥満症に対する認知度の低さ、社会的なスティグマ、地域かかりつけ医と肥満症専門機関同士の連携不足、肥満症専門機関の不足・偏在など、患者が医療へ適切にアクセスするための課題が存在しています。効果の高い肥満症治療薬の登場で治療の選択肢も広がっていますが、やせ薬として審美的目的での使用に対する懸念も高まっており、肥満・肥満症への正しい理解に基づく、産官学民での一体となった肥満症対策が望まれます。

当機構では、肥満症患者の声を中心にした政策推進を目指し、肥満症と診断され治療を受けた当事者4名に対してヒアリングを行い、ペーシェントジャーニーを作成しました。その結果、自己や社会の肥満症に対するスティグマや理解不足を背景にした生きづらさ、医療への繋がりにくさ、そして肥満症治療専門機関における集学的治療の効果と治療の継続に関する課題等が挙げられました。

ヒアリング実施期間:2023年9月~11月

ヒアリング方法:対面

当事者の声 (一部)

* 肥満症が病気であることも保険適用されることも知らなかった。

* (健康診断で)「本当に太ってる」というだけでは、絶対病院なんか行かないと思う。「肥満症という病気なので病院にかかってください」と、そこまで書かれないと行かない。

* 肥満症の治療をしていくことが当たり前になっていけばよいと思うし、もっと肥満症治療に辿り着くことができる相談できる窓口がほしい。

社会および医療現場における当事者を取り巻く実態、課題の把握を踏まえて、当事者の視点に基づく社会、医療において求められる肥満症対策について、HGPIは以下の6つを提案いたします。

肥満症対策に求められる6つの提言

* 提言1:行政機関と産業界が連携し、健康的な生活習慣に関する教育と健康リスクの少ない社会づくりを両輪として、肥満症を含めた生活習慣病の一次予防を強化すべき

* 提言2:特定健康診査・特定保健指導におけるデータヘルスの推進と実効性の強化を通じた、疾病予防効果の高い二次予防政策を実現するべき

* 提言3:肥満および肥満症の患者へ適切な介入を行うべく、地域において産官学民が連携の上、肥満症当事者の課題やニーズに寄り添った医療提供体制および支援体制を構築すべき

* 提言4:高度肥満症の患者に集学的治療が行われるよう医療提供体制の整備と全国均てん化を推進すべき

* 提言5:肥満症政策推進および医療提供体制の充実・均てん化のために、肥満症を含む慢性疾患対策への効果に関するエビデンスを創出すべき

* 提言6:偏ったボディイメージを是とする風潮や、肥満への自己責任論から脱却するとともに、医学的な病態としての肥満や肥満症に関する理解を醸成し、適時適切な医療の妨げとなるスティグマを解消すべき

なお、本提言書を踏まえて、日本肥満症治療学会 理事長/千葉県立保健医療大学 学長 龍野一郎氏より以下のようにコメントをいただいております。

この度、日本医療政策機構

肥満症対策推進プロジェクトから6つの政策提言が出されたことは画期的な事と考えます。肥満は全世界的に大流行をしており、新型コロナ感染症後の人類の健康を脅かす大きな課題とされています。肥満の中でも肥満に関連する病気を合併、または合併するリスクの高い人は肥満症と診断され、積極的な治療が必要です。これまで社会は肥満を個人の過食・運動不足による自己責任とする傾向があり、社会としての取り組みが遅れてきました。最近の研究から肥満の発症には遺伝的素因の影響が大きく、全てを自己責任とせず、肥満者に寄り添う総合的な取り組みの必要性が認識されています。今後は本提言に基づいて、患者・市民・地域が参画、協働して肥満症対策を実装化して行くことが重要です。

政策提言書はこちらからご覧ください。

日本語

https://hgpi.org/research/ncd-ob-20240304.html

English

https://hgpi.org/en/research/ncd-ob-20240304.html

■日本医療政策機構とは:

2004年に設立された非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンク。市民主体の医療政策を実現すべく、中立的なシンクタンクとして、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供しています。特定の政党、団体の立場にとらわれず、独立性を堅持し、フェアで健やかな社会を実現するために、将来を見据えた幅広い観点から、新しいアイデアや価値観を提供しています。日本国内だけでなく、世界に向けても有効な医療政策の選択肢を提示し、地球規模の健康・医療課題を解決すべく、活動しています。

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