ウェルビーイングを育むまちの特徴が明らかに~ウェルビーイングを重視した都市計画や政策立案に活用を~
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国立大学法人千葉大学 プレスリリース:2025年03月05日 報道関係者各位
ウェルビーイングを育むまちの特徴が明らかに~ウェルビーイングを重視した都市計画や政策立案に活用を~
千葉大学予防医学センターの研究グループは、公共空間や飲食店など日常生活で通う場所やその環境特性と、人々の瞬間的・長期的ウェルビーイング(注1、2)との関連性を検討するため、2022年に千葉県柏市の柏の葉エリアで成人273名を対象に、日常で感じた居心地の良い場所や不快な場所や、その時の気持ちを調査しました。
その結果、場所としては公共空間(公園や広場)、飲食店、文化・スポーツ・教育施設、環境の特性としては、自然、リラックス・清潔、コミュニケーションしやすい(注3)といった特徴を持つ場所で過ごす際に、瞬間的・長期的なウェルビーイングが高いことが示されました(図1)。この成果は、ウェルビーイングの向上に焦点を当てた都市計画や政策立案のためのエビデンスとして活用されることが期待されます。
本研究成果は、2025 年 2 月5日(現地時間)に自然科学雑誌 Scientific Reports に掲載されました。
図1 瞬間的・長期的ウェルビーイングと場所や環境特性の関連■研究の背景
これまでの健康に関する研究は「病気がないこと」に焦点を当てられてきましたが、近年では感情的・心理的な豊かさを含むウェルビーイングにも注目しています。暮らしの環境とウェルビーイングの関係については、欧州や中国で多く研究されていますが、日本での知見は限られていました。ウェルビーイングは時間的な観点から、瞬間的ウェルビーイングと長期的ウェルビーイングに区分されますが、特に瞬間的ウェルビーイングによる「その場の快適さ」と長期的ウェルビーイングによる「暮らし全体の満足度」の二つの視点での研究は十分に進んでいません。
■研究の成果
2022年4~5月に、柏の葉エリアに暮らす273名の成人(男性111名、女性161名、年齢層は36~45歳が最も多く、全体の29.7%を占めている)を対象に、調査のために用意されたスマートフォンアプリのプログラムを用いた経験サンプリング法(注4)によって、個人属性や日常で感じる居心地の良い場所、不快な場所、その時の気持ちに関する計900件のデータが収集されました。
このデータをもとに、場所、場所の環境特性、個人属性と人々の瞬間的および長期的ウェルビーイングとの関連を解析した結果、図2に記した項目が、各ウェルビーイングと統計学的に有意(注5)
な関連があることが認められました。瞬間的ウェルビーイングと長期的ウェルビーイングの二つの視点を組み合わせて分析することは、都市環境とウェルビーイングの関係をより包括的に理解することにつながると考えられます。
図2:各ウェルビーイングと関連することが明らかとなった要因
本研究の対象地域である柏の葉エリアは、「健康長寿」をテーマに、公民学連携のもとで策定されたデザインガイドライン(注8)に沿って開発が進められてきました。本研究の結果の一部として、公共空間とウェルビーイングの関連が示されたことから、デザインガイドラインの手法の一つである「誰でも利用可能なオープンスペース」などの公共空間が、調査参加者のポジティブなウェルビーイングの要因と一致していることが示唆されます。
■今後の展望
本研究は、自然、飲食店、文化・スポーツ・教育施設などの公共空間がウェルビーイングに寄与することを示しています。また、移動や交通のための空間設計は、単に移動の利便性を高めるだけでなく、心地よく移動できる環境づくりも重要であることを示唆しています。
これらの知見は、民間企業、公共機関、学術機関などの都市デザイン関係者が、ウェルビーイングを重視した開発の意思決定を行う際に役立つと考えられます。
千葉大学予防医学センターは、柏の葉エリアの居住者が全世代にわたって心身ともに健康であるかを検証するため、「柏の葉キャンパスエリアの居住者の心身の健康評価」を題材に研究を実施しています。今後も、地域住民の健康保持・増進に寄与する環境や行動に関する知見を明らかにしていきます。
※本研究は、OPERA(注9)採択事業「ゼロ次予防(注10)戦略によるWell Active Community (WACo)
のデザイン・評価技術の創出と社会実装」の一環として実施されました。■用語解説(注1)瞬間的ウェルビーイング:
日常の経験に対する即時的な感情反応であり、気分、リラックス感、疲労感などを含む多面的な概念。(注2)長期的ウェルビーイング:
長期間にわたる人生満足度、人生の目的、人生の意義などに対する全体的な認識。(注3)コミュニケーションしやすい:
調査対象者が過ごしている場所は「顔なじみの人と会える」、「会話をしやすく感じる」といった環境特性があること。(注4)経験サンプリング法:
一般社団法人日本経験サンプリング法協会により、調査対象者が日常生活を送る中で、一日数回×数日間にわたって繰り返しデータを取得するという縦断的な調査手法のこと。対象者がその瞬間に経験していることを記録するため、リコールバイアス(記憶の偏り)を抑制することができる。
(注5)統計学的に有意:
今回のような結果が偶然に観察される確率を計算したところ、5%未満であった。つまり、今回観察された関連は偶然に現れた可能性が低いと推測することができる。(注6)
活気がある:調査対象者が過ごしている場所は「人が多く、賑やかである」「駐車場や駐輪場が多い」などの環境特性があること。(注7) 世帯収入が多い:
世帯収入の多さと長期的ウェルビーイングの負の関連は、地域の経済発展と収入の観点から考えられる。先行研究により、低所得の発展途上国では収入がウェルビーイングに大きく影響するが、より豊かな地域ではその影響が弱まるとされる。また、収入の影響には閾値があり、一定水準を超えると影響が薄れるとする研究もある。
(注8) デザインガイドライン:
柏の葉キャンパスで目指す課題解決型まちづくりの3つのテーマである「新産業創造」、「環境共生」、「健康長寿」をさらに具現化するため、公民学連携し、まちづくりの方針および「誰でも利用可能なオープンスペース」など公共空間に関するデザインコードが策定された。
(注9) OPERA:科学技術振興機構(JST)が公募する産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム事業。(注10) ゼロ次予防:
原因となる社会経済的、環境的、行動的条件の発生を防ぐための対策を取る。■研究プロジェクトについて
本研究は、三井不動産株式会社により実施した共同研究の研究費で実施されました。■論文情報タイトル:Perceived urban environment
elements associated with momentary and long-term well-being: An experience
sampling method approach.著者:Yu-Ru Chen, Atsushi Nakagomi, Masamichi Hanazato,
Noriyuki Abe, Kazushige Ide, Katsunori Kondo雑誌:Scientific ReportsDOI:
10.1038/s41598-025-88349-x 当リリースの詳細について
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000953.000015177.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000953.000015177.html
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