こどもの困りごとをAIで分析し可視化–「声なき声」を社会へ届ける新たな試み

NPO法人OVAは、検索エンジン等において「死にたい」など自殺関連用語を調べているユーザーに対して、検索連動型広告でアウトリーチし、インターネットで相談を受ける事業を実施しています。この度、インターネット相談事業における10代以下の相談内容(期間:2024年4月1日~2025年1月31日)を、AIを活用したブロードリスニングツール「Talk

to the City」(※1)を用いて、整理・分析・可視化を試みました。※1)米国のNPO・AI Objectives

Instituteが提供するオープンソース。膨大なデータの分析・可視化が可能。

本分析は、AIを活用した自然言語処理技術を用い、10代以下の相談内容をクラスタリング(分類)し、希死念慮のある子どもたちからの相談(悩みごと)を体系的に整理し、「声なき声」を可視化し、社会へ届けることを目指したものです。

■分析結果

分析の結果、将来の展望・メンタルヘルスへのアクセス・孤立感に対する大きな懸念が明らかとなりました。多くの子どもが、学業やキャリアのプレッシャー、家族関係の悪化、学校に関する問題によって、ストレスや孤独を感じています。

特に、親や教育者からの理解やサポートが不足していることが、状況をさらに悪化させ、経済的な制約や過去のトラウマもメンタルヘルスサービスへのアクセスを妨げ、心身の健康の悪化につながっています。また、部活動や家庭内の責任によるストレスも重なり、自己肯定感の低下や将来への不安を強めていることが分かりました。下記は分類ごとの結果です。

孤独感・孤立感(29%)<クラスター分析>相談者たちは、家庭や学校での人間関係に強いストレスを感じており、孤独感や居場所のなさに悩んでいる。

親や友人との関係が悪化し、相談できる相手がいないことが多く、精神的な負担が大きい。

また、進路や将来に対する不安、いじめや嫌がらせによる精神的苦痛も共通して見られる。

<代表的な相談内容>•過保護な親による行動制限や友人間で疎外感を感じ、生きづらさに悩んでいる。•

人と話すのが苦手で自己否定が続き、限界を感じて生きることに対して矛盾した思いを抱いている。•避妊具の破損で妊娠を心配しており、誰にも相談できず不安を感じている。

•親や元担任に相談できず、一人で悩んでいる。•未成年であるため親の同意が得られず、一人暮らしができずに困っている。不登校・学校不適応(19%)<クラスター分析>

学校や家庭での人間関係やプレッシャーにより、強いストレスや孤独感を抱えている相談が多い。

いじめや親からの期待、体調不良などが原因で、学校に行くことがつらく、生きる意味を見失っている。

また、親や教師に理解されず、孤立感や不安を深めているケースが目立つ。

<代表的な相談内容>•中学受験期に親からの叱責が頻発したことで、強いストレスを感じていた。•通信制高校に転入してから息が苦しくて眠れない状況に悩んでいる。•

お腹の病気が悪化し、体調不良の中で勉強が難しくなっている。•消えたい気持ちを抱えつつも、学校に行くことがつらく、社会で生きていく自信がないと感じている。•

学校に行くことがつらく、親に怒られるため無理に通っているが、精神的に限界を感じている。進路・将来不安(13%)<クラスター分析>

多くの相談者が、進学や就職、アルバイトなどの将来に関する不安やプレッシャーを強く感じている。

また、勉強や人間関係がうまくいかず、自信を失い、孤独感や無力感に苛まれている。 家庭や経済的な問題も重なり、精神的に追い詰められている状況が見受けられる。

<代表的な相談内容>•公務員試験が近づくことへの焦りと、自分に自信が持てず不安を感じている。•

父親の期待に応えられず、医学部を目指すも浪人を繰り返し、将来に不安を感じている。•進路選択に対して希望が持てず、将来を考えると不安で気持ちが暗くなる。•

アルバイト先での発言が人に悪い印象を与えたかもしれないと不安に感じている。•浪人生で、不安が強まり、生きるのに疲れを感じている。勉強ができずに悩んでいる。

心身の不調(10%)<クラスター分析>このクラスタに属する相談者は、精神的な不安定さやストレスからくる体調不良に悩んでいる。

不眠や悪夢、感情の浮き沈み、自己否定感が強く、日常生活や人間関係に支障をきたしている。

身体的な症状(頭痛、腹痛、倦怠感など)も頻繁に現れ、心身ともに限界を感じている。

<代表的な相談内容>•就寝時の不安感により、眠りにくさを感じている。•

自分を否定し続け、自分を肯定できずに苦しんでいる。完璧主義でミスを引きずり、更にミスを重ねる負のサイクルに陥っている。•

ストレスから体調に影響が出ており、助けを求めている。•昔から周囲と自分を比べがちで、マイナス思考に悩んでいる。•

恐怖や不安が過度に出てきて、やるべきことができずに悩んでいる。家庭内ストレス(10%)<クラスター分析>

家庭内での親子関係や兄弟姉妹間の不公平感、親からの暴力や暴言により、強いストレスや孤立感を抱えている相談が多い。

また、家庭の経済的困難や親の不安定な感情、家事や介護の負担が重くのしかかり、精神的に追い詰められている。

家族内での比較や愛情の欠如により、自己価値感が低下し、将来への不安を感じているケースが目立つ。

<代表的な相談内容>•母子家庭で公立高校に合格しなければならないというプレッシャーを感じ、家や学校に居場所がなく、ストレスで限界を感じている。•

姉妹間で母からの対応に格差があると感じ、悩んでいる。•親や祖父母から人権を否定するような言葉を言われ、兄と比較されることで精神的に苦しんでいる。•

家が狭く非常に汚く、母は家事をせず祖父母からの支援に頼っている。•

弟の暴力的な言動や、母の交際相手からお金を使われたり暴力を振るわれたことがあり、家庭で安全を感じられない。精神科受診の困難(7%)<クラスター分析>

相談者は、精神的な不調や身体的な症状に悩みながらも、親に相談できずに孤立感を抱えている。

精神科受診を望むが、親の理解が得られない、経済的な制約がある、年齢制限があるなどの理由で受診が難しい状況にある。

また、過去のトラウマや家庭環境の問題が影響し、日常生活に支障をきたしているが、適切な支援を受けられずに苦しんでいる。

<代表的な相談内容>•精神科受診や服薬も効果がなく、私生活で不安定な状態が続いている。•

ネガティブな考えを持つ自分に精神疾患があるのではと不安を感じ、親に病院に行きたいと言えない。•

発達障害の検査で問題がなく、病名がないことに戸惑い、つらさをどのように捉えればよいかわからない。•

身体的不調が続き、親に迷惑をかけていることに罪悪感を感じている。•頭痛や嘔気が続いているが、体調について親には相談したくない。将来不安(6%)<クラスター分析>

将来に対する強い不安と自己嫌悪感に悩む相談が多い。 生きる意味を見失い、ストレスや孤独感から自傷行為に走ることがある。

感情の起伏や自己価値の喪失に苦しみ、将来への恐れが日常生活に影響を及ぼしている。

<代表的な相談内容>•将来に対し強い不安を感じており、自分自身に対して嫌悪感を抱いている。•

強いストレスを抱えており、生きる意味を見失い、将来に不安を感じている。•最近は現実から逃げたい気持ちになることが多く、不安を感じている。•

楽しいと思うことが少なく、生きる意味を感じられない。•希死念慮が増しており、将来に対して強い不安を抱えている。部活・生徒会ストレス(5%)<クラスター分析>

学校生活や部活動、生徒会活動において、評価されないことや人間関係のトラブルに悩む相談が多い。

顧問や先生からの期待に応えられないことや、仲間との関係がうまくいかないことが精神的な負担となっている。

また、部活や生徒会のプレッシャーやストレスが重なり、心身の不調を訴える声が共通している。

<代表的な相談内容>•部活が嫌で退部を考えており、親には相談している。•新しい部活で頑張っても評価されず、沈んだ気持ちが続いていることに苦しんでいる。•

生徒会の連絡アプリを見逃して会議に参加できず、先生や他のメンバーからの誤解や圧力を感じ、生徒会を辞めたいが言い出せないでいる。•

生徒会での役員の仕事を強要されたり、先生から一方的に怒られることにストレスを感じている。•

担任の先生の対応や、友人関係、体育祭の係でのトラブルが重なり、心の負担を感じている。<詳細レポートについて>

項目ごとにどのような相談があったのか等、レポートの更なる詳細については、分析の対象が子どもの相談内容という性質上、政策関係者や地方自治体で自殺対策に携わる方、対人支援を行う団体などに限定公開という形とさせていていただきます。

下記のフォームからお問い合わせください。なお、本レポートでは、実際に寄せられた相談から個人情報に関連するものを除いた形でデータ分析を行っております。

https://forms.gle/wKFJ8XR1B1mXcRUV9

■今後の展望(代表理事・伊藤次郎のコメント)

2013年に「死にたい

助けて」と検索がされていることを知り、その宛先のない叫びに宛先を作りたいと思い、活動を開始しました。それ以来、テクノロジー・マーケティングの技術を活用し、周囲に相談できずに孤独・孤立状態にある「声なき声」に支援を届けることをビジョンとし、デジタルアウトリーチやインターネット相談の実践・研究・普及を進めてきました。

NPO法人OVAでは、相談者を地域・社会の問題を映し出す存在としても捉えています。その問題意識のもと、昨年から相談のデータをAIを活用することで、一人一人の相談から、自動で地域・社会課題を抽出する仕組みを内部構築していました。

私たちは、既存の制度・仕組みでは受け止めきれない「声なき声」を相談の現場で受け止め、社会に伝える役割があると考えています。ソーシャルアクションにおいては、主観や直感だけでなく、データ・エビデンスに基づいたアプローチが必要だとも考え、様々な調査・研究も行ってきました。今回の取り組みは、子どもの相談内容という膨大な情報から、AIで整理し、可視化することを目指しました。

AI技術の発展により、社会はますます不確実性を増し、新たな社会課題も生まれると懸念しています。一方でAIや新しいテクノロジーは、孤独・孤立状態にある人々を支えるために活用できるとも信じています。

私たちは、社会のさまざまな課題に直面し、苦しむ人々と出会っています。この社会の「段差」(社会課題)を発見し、修正しなければ、同じ段差で転ぶ人が出てきます。今後、相談の現場から、社会課題を発見し、社会にフィードバックする仕組みを構築していきます。

※関連記事:AI活用で個人の悩みを社会化できるか

https://ova-japan.org/?post_type=blog2&p=8688

※当レポート出力に使用したコードはこちら(GitHubのページに遷移します)

https://github.com/npoova/npoova-ig-children-tttc※レポート詳細に関する閲覧申し込みフォーム

https://forms.gle/wKFJ8XR1B1mXcRUV9

https://forms.gle/wKFJ8XR1B1mXcRUV9

政策関係者や地方自治体で自殺対策に携わる方、対人支援を行う団体などに限定■NPO法人OVAについて

検索エンジンで自殺関連用語を調べるリスクの高い方々に対し、検索連動広告でアウトリーチとインターネット相談を実施。2025年3月現在、約40の自治体・非営利活動法人で、検索連動広告を活用した自殺対策事業を展開しています。

2024年7月には、児童生徒の自殺対策を目的とした1人1台端末向けブラウザ拡張機能「SOSフィルター」をリリースしました。

<団体概要>設立:2014年7月18日代表理事:伊藤次郎本部所在地 : 東京都新宿区西新宿7丁目17番7号 廣田ビル401号室事業内容 :

自殺リスクが高い人々への直接的・間接的な支援、また自殺予防の啓発、支援ネットワーク構築、社会に対する提言など、自殺予防に関するあらゆる取り組みを行う。URL:

https://ova-japan.org/

https://ova-japan.org/ 当リリースの詳細について

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000136965.html

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