希少なオリゴ糖に作用するユニークな基質特性を持つ新規酵素を発見 ~新たな機能を持つ糖鎖の合成、利用の可能性を拓く~
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東京理科大学 プレスリリース:2025年03月06日 報道関係者各位 希少なオリゴ糖に作用するユニークな基質特性を持つ新規酵素を発見
~新たな機能を持つ糖鎖の合成、利用の可能性を拓く~ 【研究の要旨とポイント】
ガラクトースを含む糖鎖はプレバイオティクスとして近年注目が集まっており、より有用性の高い物質がまだ多数存在すると推測されます。
今回、腸内細菌の一種から、新規な基質特異性を持つガラクトオリゴ糖分解酵素β-ガラクトシダーゼを同定しました。
酵素は糖鎖の合成に欠かせないもので、生成された糖鎖の機能性にも深く関わります。新規酵素を用いることで有用な糖鎖の大量生産が可能になり、新しい機能を持った機能性食品や医療につながる可能性があります。
【研究の概要】東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科の中島 将博准教授、同大学 創域理工学研究科生命生物科学専攻の中澤
裕氏(2023年度修士課程修了)、新潟大学 農学部 農学科の中井 博之准教授、香川大学 農学部 応用生物科学科の松沢
智彦助教らの研究グループは、ニコチンを分解できる腸内細菌の一種Bacteroides xylanisolvens(以下「B. xylanisolvens
」)から、新規な基質特異性を持つガラクトオリゴ糖分解酵素群を発見しました。
オリゴ糖はヒトの母乳をはじめ、自然界に広く存在しており、消化管の上部で分解や吸収がされず、腸内のビフィズス菌などの善玉菌の栄養素となることで腸内環境を整える効果が知られています。こうした作用を持つ食品成分をプレバイオティクスといい、難消化性であるオリゴ糖はその代表です。
ガラクトシドは植物細胞壁やさまざまなオリゴ糖に含まれる糖質です。β-ガラクトシダーゼはガラクトシドを分解してガラクトースを生成する酵素です。有用性の高いオリゴ糖を見出し、大量生産するためには、そのオリゴ糖を合成するための新しい酵素の探索が重要です。特に、新しい基質特異性を持つβ-ガラクトシダーゼを見出すことは、新しい機能を持ったオリゴ糖の開発につながる可能性があります。
本研究では、腸内細菌B, xylanisolvens
から新規な基質特異性を持つβ-ガラクトシダーゼを同定しました。これは、β-1,2-ガラクトオリゴ糖(図1)というユニークな糖鎖に作用します。この酵素の発見で、希少なβ-1,2-ガラクトオリゴ糖の機能や特性、利用の研究が進むと期待されます。また、ユニークな基質特異性を持つことから、新しい機能を持ったオリゴ糖を見出す手掛かりになる可能性もあります。
図1. β-1,2-ガラクトオリゴ糖と乳糖の模式図
ヒドロキシ基にはその番号を記載している。β-1,2-ガラクトオリゴ糖ではガラクトースの1位と2位のヒドロキシ基どうしで結合しており、β-1,2-結合となっている。乳糖はガラクトースとグルコースがβ-1,2-結合で連なっている。β-ガラクトシダーゼは赤で囲ったガラクトース部分を分解する酵素である。
本研究成果は、2025年1月16日に国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載
[]されました。【研究の背景】
オリゴ糖をはじめとする糖鎖の構造は、単糖のつながりで決定されます。オリゴ糖はその結合する単糖や結合の仕方で多くの種類が存在し、ガラクトースという単糖によるものはガラクトオリゴ糖といいます。このガラクトオリゴ糖の中でも、β-1,2-というユニークな結合をしたβ-1,2-ガラクトオリゴ糖を、今回の研究のターゲットとしました。β-1,2-ガラクトオリゴ糖は、その希少性から不明なことが多くあり、応用の可能性を模索する研究はこれからです。
糖鎖の応用可能性を追求するには糖鎖を大量生産する必要があり、その主な方法は酵素合成法です。酵素には特定の化合物に作用するという基質特異性とよばれる選択性があり、ターゲットとなる糖鎖に作用する酵素を見つけ出すことは非常に重要です。
本研究グループは、こうした糖鎖とそれに作用する酵素の機能解析、応用を見据えた糖鎖の大量合成手法の開発などをテーマに研究を続けています。特に、糖鎖の中でもユニークなβ-1,2-グルカンというグルコースから構成される糖鎖に着目し、これまでに、β-1,2-グルカンを基質とする新たな合成酵素、分解酵素についての研究成果を発表しています(※1,2)。
(過去のプレスリリース)※1 「グルコースが連なったオリゴ糖に作用する新規な糖転移酵素の発見 ~新規なオリゴ糖配糖体の合成法の開発に貢献~」
[]※2
「細菌の病原性などに関わる糖鎖「OPG」の新規の生合成酵素を発見 ~新たな創薬ターゲットとなる可能性~」
[]
今回の研究では、希少なβ-1,2-結合を持つβ-1,2-ガラクトオリゴ糖に着目し、これに作用する酵素の探索をおこないました。【研究結果の詳細】
β-ガラクトシダーゼとは、主要なグリコシド加水分解酵素で、さまざまな種類があります。例えば、LacZというβ-ガラクトシダーゼは乳糖(図1)を分解します。こうした糖鎖を分解する糖質加水分解酵素(GH)とよばれる酵素群は非常に機能が多様です。そこで、これまでに見出されていない酵素機能に着目しました。
本研究では、腸内細菌の一種であるB. xylanisolvens
からGH酵素の一つを研究対象としました。この細菌はもともとキシランという多糖を分解することで知られており、最近ではニコチンを効率的に分解する細菌としても報告されています。
B. xylanisolvens
は多くのGH酵素を持ち、幅広い糖鎖を分解できると考えられていますが、その詳細は不明です。Β-ガラクトシダーゼをコード(※1)すると考えられる遺伝子も複数存在することから、β-1,2-ガラクトオリゴ糖にも作用する酵素も持つ可能性があります。本研究グループは、そうした候補遺伝子の一つがコードしているタンパク質Bxy_22780がβ-1,2-ガラクトオリゴ糖に作用する可能性があると考え、研究を行いました。
Bxy_22780は、最初のスクリーニングでは乳糖やプレバイオティクスとして知られる糖鎖を含む天然のβ-ガラクトシドに対して加水分解活性を示しませんでした。しかし、フッ化ガラクトシド(α-GalF)とガラクトースを用いて触媒を行うアミノ酸残基の変異体と反応することで、オリゴ糖の生成物が確認されました。さらに、この生成物のうちの二糖(ガラクトビオース)は、NMRを用いてβ-1,2-ガラクトビオースと同定されました。
酵素活性の定量的な解析から、この酵素はβ-1,2-ガラクトオリゴ糖を効果的に加水分解する酵素であることが示されました。さらに、この酵素にガラクトース類似体が結合した立体構造を解析することで、この酵素がガラクトオリゴ糖のβ-1,2-結合に作用するメカニズムが明らかになりました(図2)。以上より、この酵素はβ-1,2-ガラクトオリゴ糖に作用する新規なβ-ガラクトシダーゼであると結論づけることができました。
図2. β-1,2-ガラクトオリゴ糖に作用するβ-ガラクトシダーゼの構造
右図ではガラクトース類似体の2位ヒドロキシ基が結合するガラクトースの方向を向いており、この酵素がβ-1,2-結合に作用できることが構造的に示されている。
この新しい酵素の発見により、未だほとんど知られていないβ-1,2ガラクトオリゴ糖の機能、利用、生理的な役割の解明に大きく前進しました。将来的な医薬品開発や機能性食品の開発のみならず、糖鎖の研究や酵素の探索にも役立つことが期待されます。
中島准教授は「糖鎖の種類は非常に膨大で構造も複雑なため、その機能性や利用の可能性が知られていない糖鎖はまだ多数存在すると考えられます。糖鎖の合成には酵素は欠かせず、新規酵素の探索は非常に重要です」とコメントしています。
【用語】※1 コード
それぞれのタンパク質はある決まった順番に連なったアミノ酸の鎖(アミノ酸配列)が一定の形で折り畳まれて機能を発揮する。遺伝子が、その生産されるアミノ酸配列を指定することをコードする、と表現する。
【論文情報】雑誌名:Communications Biology論文タイトル:Structure and function of a
β-1,2-galactosidase from Bacteroides xylanisolvens, an intestinal bacterium
著者:Yutaka Nakazawa, Masumi Kageyama, Tomohiko Matsuzawa, Ziqin Liang, Kaito
Kobayashi, Hisaka Shimizu, Kazuki Maeda, Miho Masuhiro, Sei Motouchi, Saika
Kumano, Nobukiyo Tanaka, Kouji Kuramochi, Hiroyuki Nakai, Hayao Taguchi,
Masahiro NakajimaDOI:10.1038/s42003-025-07494-1
[]【発表者】中澤 裕 東京理科大学大学院 創域理工学研究科
生命生物科学専攻(2023年修士課程修了)影山 万純 東京理科大学 理工学部 応用生物科学科(2020年学部卒)松沢 智彦 香川大学 農学部 応用生物科学科
助教リョウ シシン 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科(2024年学部卒)小林 海渡 東京理科大学大学院 理工学研究科
応用生物科学専攻(2019年博士課程修了)清水 久佳 東京理科大学大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻(2017年修士課程修了)前田 和輝 東京理科大学
創域理工学部 生命生物科学科(学部4年生)増廣 美帆 東京理科大学 理工学部 応用生物科学科(2021年学部卒)元内 省 東京理科大学大学院 創域理工学研究科
生命生物科学専攻(博士2年生)熊野 采夏 東京理科大学 理工学部 応用生物科学科(2016年学部卒)田中 信清 東京理科大学大学院 理工学研究科
応用生物科学専攻(2019年博士課程修了)倉持 幸司 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科 教授中井 博之 新潟大学 農学部 農学科 准教授田口 速男
東京理科大学 理工学部 応用生物科学科 教授(当時)中島 将博 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科 准教授【研究に関する問い合わせ先】東京理科大学
創域理工学部 生命生物科学科 准教授中島 将博E-mail:m-nakajima【@】rs.tus.ac.jp【報道・広報に関する問い合わせ先】東京理科大学
経営企画部 広報課TEL:03-5228-8107 FAX:03-3260-5823E-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp新潟大学
広報事務室TEL:025-262-7000Email:pr-office【@】adm.niigata-u.ac.jp香川大学 農学部事務課庶務係広報担当
TEL:087-891-3008 FAX:087-891-3021E-mail:shomu-a【@】kagawa-u.ac.jp【@】は@にご変更ください。
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