年末年始の旅行に関する意識調査~感染防止を最優先 「新常態の安近短」~

キーワードは、安心安全・近場/近しい関係・短期間 ● 年末年始、 旅行に行きたいと考えている人は14.8%(前年比▲5.2ポイント)

● 安心安全にこだわり、 行先・移動手段・宿泊先を選択

● 自宅から近いところに車で移動、 近しい家族と少人数で1泊2日が主流

JTBは、 「年末年始(2020年12月23日~2021年1月3日)に1泊以上の旅行に出かける人」の意識調査をまとめました。

当社は、 例年、 年末年始の国内/海外旅行者数や消費額を各種データや定点の意識調査をもとに推計し、 「年末年始の旅行動向」として発表してきました。

しかしながら、 新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、 新型コロナ)の世界的な拡大により海外渡航は依然制限され、

日本国内でも11月に入り新規感染者数が増加しています。 現在実施中の観光需要喚起策の見直しが一部地域で講じられるなか、

旅行を取り巻く環境は流動的であることから、 今年は旅行者数等の推計は行わず、 定点で実施している意識調査、

および各種データから見えてくる年末年始の旅行トレンドについてまとめることとしました。 結果は以下の通りです。

<社会経済環境と生活者の動き>

1.夏以降の新型コロナウイルス感染症と旅行・観光の動き

新型コロナの新規感染者数は、 9月末ごろから北米や欧州を中心に再び増加に転じ、 深刻な状況が続いています。 欧州では各国で再度ロックダウンの措置が行われ、

米国では1日当たりの新規感染者数が10万人を超えるなど、 収束の兆しは見えていません。

海外への移動や旅行に関しては、 渡航先の多くの国で引き続き入国制限がかかっていますが、 一部の国で永住権保有者や外交官、 業務渡航者などに対し、

条件付きで制限が緩和されつつあります。 またシンガポール、 タイなど、 感染状況が落ち着いている国では、 条件付きで観光客の受け入れも再開されています。 ただ、

日本政府は現在、 基本的には海外からの帰国者に対し14日間の隔離の要請を継続しているため、 以前のように気軽に海外観光旅行ができる環境には程遠く、

再開の目途は立っていません。

国内旅行に関しては、 7月22日に開始したGo Toトラベル事業に、 10月から東京発着の旅行が対象になりました。 観光庁の宿泊旅行統計調査によると、

日本人の延べ宿泊者数は、 8月が前年同月比51.8%減だったのに対し、 9月は36.2%減、 10月は17.2%減と回復傾向にあります。 また、

航空便の国内線の便数も、 JALが10月の34%減から11月は26%減、 12月は18%減とし、 12月25日から1月5日までは6%減まで回復予定です。 また、

ANAも10月の43%減から11月は29%減、 12月は17%減へと増便に動いています(2020年12月4日現在JAL・ANAプレスリリースより)。

しかしながら、 11月に入り、 再び新規感染者数が増加し、 札幌市・大阪市を目的地とする旅行についてGo Toトラベル事業の適用が一時停止されました。

さらに両市の居住者による旅行や、 65歳以上の人および基礎疾患のある人による東京発着旅行への、 Go

Toトラベル事業利用の一時自粛が呼びかけられるなど制限が増しています。 また、 飲食店などの営業時間短縮要請が出される都市も増えてきています。 今後、

感染拡大により、 さらなる方針変更の可能性もあり、 予断を許さない状況が続きます。 ワクチンや特効薬の開発といった明確な治療法が確立されるまでは、

引き続き感染防止を意識した取り組みをしながら生活を続けることになりそうです(図表1)。

2.旅行やレジャー消費をとりまく経済環境と生活者意識

コロナ禍における日本の経済環境は、 4月に全国に発出された緊急事態宣言により、 経済活動が大きく制限されました。 特に個人消費と輸出が影響を受け、

4~6月期のGDP成長率はリーマンショック時以上に大きく落ち込みました。 その後は経済活動の再開により、 個人消費、 輸出ともに持ち直し、 現在、

回復途上です。 11月の内閣府の月例経済報告では「景気は、 新型コロナウイルス感染症の影響により、 依然として厳しい状況にあるが、 持ち直しの動きがみられる。

」とされています。 ここ1か月の日経平均株価は、 バブル崩壊以降の最高値更新が続いています(図表2)。

雇用環境については、 厳しい状況が続いています。 完全失業者数は10月時点で8か月連続増加となり、 完全失業率は3.1%まで上昇しました。

有効求人倍率は10月に1.04まで下がっており、 9月より0.01ポイント上昇したものの、 2013年6月以来の低い水準となっています(厚生労働省

職業安定業務統計)。 雇用形態別雇用者数は、 直近の調査では男女ともに正規雇用は前年同期比で増加しているものの、

非正規の雇用者は大幅に減少しています(図表3)。 また、 2020年冬の民間企業のボーナスは、 前年比10.7%減と、

リーマンショックを超える減少幅を記録すると予想されています(2020年11月9日三菱UFJリサーチ&コンサルティング発表)。

生活意識に関しては、 日銀が定点で調査している「生活意識に関するアンケート調査」の暮らし向きの実感の推移をみると、 春先の緊急事態宣言解除後の6月には、

「ゆとりがなくなってきた」と回答した割合が42.6%と前回調査の3月から若干増えたものの、 9月には38.8%と減少し、 3月より改善される結果となりました。

「ゆとりが出てきた」は6月に下がり、 9月に再度上昇しましたが、 3月の水準には至っていません(図表4)。

JTBが実施したアンケートで、 回答者自身の生活と年末年始について当てはまる状況を聞いたところ、

収入については「昨年より収入が減った(19.1%)」「昨年よりボーナスが減りそうだ(20.1%)」が「増えた」「増えそうだ」と回答した人より大幅に多い結果となっています。

また、 「将来が不安なので、

貯蓄や資産運用を増やしている(11.7%)」が「将来に不安はないので貯蓄や資産運用は増やしていない(4.5%)」を上回る結果となっています。

「先行きがわからないので大きな支出は控えておきたい」が26.6%である一方で、 「先行きがわからないので、 今のうちに大きな支出を考えたい」は1.8%と、

大型出費に消極的な傾向にあります(図表5)。

「今後1年間の旅行支出に対する意向」を聞いたところ「支出を増やしたい(8.4%)」は昨年から5.2ポイント減少し、

逆に「支出を減らしたい(44.4%)」は11.0ポイント増加しました。 「同程度(合計47.2%)」も5.8ポイントの減少となっており、

旅行支出を減らそうと考えている人が増えていることが分かります(図表6)。

3.年末年始の旅行を取り巻く環境と生活者の旅行意向

今年の年末年始の休暇は、 カレンダーどおりの日並びでは、 12月28日(月)を仕事納めとすると、 1月3日(日)まで6連休になります。

12月28日(月)を休みにすると、 12月26日(土)から1月3日(日)まで9連休とすることが可能です。 政府は帰省や旅行、

初詣などで人出が集中するのを防ぐため、 年末年始の休暇の分散や延長を促しています。

前述のアンケートで、 年末年始期間中(2020年12月23日~2021年1月3日)の帰省を含めた旅行意向を聞きました。

結果は「行く(7.9%)」および「たぶん行く(6.9%)」と回答した人の合計は14.8%と、 昨年より5.2ポイント減少しました。

「たぶん行かない(18.4%)」と「行かない(66.7%)」の合計は85.1%で、 5.0ポイント増加しています(図表7)。 性年代別でみると、

男女とも若い年代ほど旅行意向が高く、 「行く」と「たぶん行く」の合計が男性20代は25.7%となりました。 一方、 男性60才以上は8.7%、

女性60才以上は7.1%となり、 年代による差がみられる結果となりました(図表8)。

旅行の目的や動機については、 「毎年恒例なので(43.5%)」、 「家族一緒に過ごすため(37.6%)」に加えて、

「温泉やリゾートでゆっくり過ごしたいので(23.0%)」が昨年より2.3ポイント増加、 「家に居てもつまらないので(8.7%)」が3.9ポイント増加するなど、

新型コロナによる自宅での自粛疲れの影響も垣間見られます(図表9)。

<2020年~2021年 年末年始の国内旅行動向予測>

1.感染防止意識が強い「新常態の安近短」旅行――安心安全・近場/近しい関係・短期間

事前調査で「今年の年末年始に国内旅行に行く/たぶん行く」と回答した1,697名を抽出し、 旅行の内容について詳細を聞きました。 全体的に、

旅行を予定している人は、 新型コロナに無頓着だから旅行をするのではなく、 感染防止を何よりも優先して旅行をするという姿が見えてきました。

旅行の内容は以下のとおりです。 * 旅行の出発日:「12月30日(水)(15.1%)」「12月31日(木)(13.3%)」「12月29日(火)(11.8%)」の順でしたが、

「12月26日(土)(11.2%)」が続き、 28日(月)を休んで長い連続休暇とする人も多いようです(図表10)。

* 旅行日数:「1泊2日」が30.8%と最も多くなりました。 「2泊3日(25.2%)」が次に続きましたが、 2.5ポイント昨年から減少し、

短くなる傾向が見られました(図表11)。

* 旅行先:「関東(21.6%)」が最多でしたが、 昨年より3ポイント減少しました。 都市部が敬遠されたとも考えられます。

これに「近畿(16.3%)」が続きました(図表12)。

* 同行者:「家族づれ(61.6%)」が最多でしたが、 昨年と比較して3.6ポイント減少。 内訳は「子供連れ」は増加したものの、

「夫婦のみ」「それ以外(母娘、 三世代)」が減少しました。 「ひとり(20.7%)」が昨年より3.7ポイント増加しました(図表13)。

* 一人当たりの旅行費用:「1万円~2万円未満(23.3%)」が最も多かったものの、 「1万円未満(21.5%)」が昨年より4.8ポイント増加し、

昨年から順位を上げ2番目となりました。 「4万円~5万円未満(11.2%)」が3.4ポイント減少、

「5万円~7万円未満(4.8%)」が2.4ポイント減少しました(図表14)。

* 利用交通機関:「乗用車(56.3%)」が最も多く、 昨年より3.6ポイント増加。 「JR新幹線(20.7%)」は5.2ポイント減少し、

「高速/長距離バス(6.4%)」も2.1ポイント減少となりました。 公共交通より「乗用車」を利用する傾向がみられます(図表15)。

* 利用宿泊施設:「旅館・ホテル・民宿・ペンション(56.5%)」が昨年より2.5ポイント増加した一方で、

「夫や妻の実家(24.0%)」が3.9ポイント減少しています。 新型コロナの影響もあり、

高齢者や近所への配慮から実家を避ける人もいるようです(図表16)。

2.旅行の同行者・移動手段・行先の選択に新型コロナ感染防止への配慮、

Go Toトラベル事業は例年とは異なる行動の動機に一定数影響

アンケートでは、 例年にはない今年の特徴として「コロナ禍の旅行で特別に考慮すること」を聞きました。

「家族・親族や親しい友人以外には会わない(34.2%)」が最も多く、 続いて「公共交通機関を使わずに、

自家用車やレンタカーを使う(30.6%)」「少人数の旅行にとどめる(24.1%)」「人が多数移動する時間を避ける(20.7%)」「感染者数が増加傾向の地域は避ける(18.7%)」となり、

前述の結果からも分かるように、 「同行者」「移動手段」「行先」の選択に新型コロナへの対策が影響しています(図表17)。

居住地方別に今回の旅行先の地域を聞いたところ、 旅行先と居住地が同じ地方になっている比率が高い結果となり、

近い距離である「自分の住んでいる地方で旅行をする」意向が高いといえます(図表18)。

また、 Go Toトラベル事業が年末年始の旅行動機や行動に与えた影響について聞いたところ、 「今回の旅行動機や行動に影響していない」が61.8%となりました。

一方で、 「例年旅行しないが今年は旅行する」が19.2%、 「宿泊先を実家から宿泊施設に変更」 が8.8%、

「帰省をやめて別の場所へ旅行」が8.6%となりました。 Go Toトラベル事業があることで、

実家滞在を避け旅館やホテルなどに滞在するのが今年の特徴の一つともいえそうです(図表19)。

よってコロナ禍での年末年始の旅行は、 従来の「安近短(安い・近い・短い)」ではなく、 旅行再開時から見られていた、

感染防止に配慮する「新常態の安近短(安心安全・近場/近しい関係・短期間)」が大きな特徴で、 しばらく続くと考えられます。

3.今年の年末年始で気になる場所は「買い出しが楽しめる場所」「話題の商業施設やアウトレットモールなど」

が急上昇、 宿泊では「高級旅館」「リゾートホテル」が人気

今年の年末年始に出かける場所として、 どのような場所が気になっているかを聞いてみました。 全体では「買い出しが楽しめる場所(13.8%)」が最も多く、

次に「東京ディズニーリゾート(R)(11.0%)」、 そして「話題の商業施設やアウトレットモールなど(9.7%)」となりました。

昨年の上位3つは「温泉」「東京ディズニーリゾート(R)」「動物園や水族館」であり、

今年は昨年より買い出しや商業施設などへの訪問に興味を持っている人が多いといえます(図表20)。

* JTBの宿泊・国内企画商品の予約状況をみると、 Go Toトラベル事業の後押しもあり、 例年より早く申し込みが入り好調に推移していましたが、

新型コロナ感染拡大により11月下旬から取り消しが増え、 前年を10%下回っています(12月7日時点)。 一方、

1月4日以降の予約は前年並みに推移しています。 旅行先としては、 全国的に居住地域内および近隣エリアへの旅行を選ぶ傾向が顕著です。 なかでも、

車でアクセスできる温泉地や自然・景勝地への関心が高く、 部屋食や貸切風呂など三密を回避したサービスを提供する高価格帯の小規模旅館や、 自然に近い海や湖、

山岳地域にあるリゾートホテルが好調です。 一方で、 東京ディズニーリゾート(R)の入場制限やクリスマス・年越しイベントの中止も影響し、

例年人気の東京・千葉は前年より半減など、 全国的に都市部の回復が遅れています。

【旅行動向アンケート 調査方法】

調査実施期間: 2020年11月17日・18日・19日

調査対象: 全国15歳以上79歳までの男女個人

サンプル数: 事前調査20,000名 本調査1,697名

(事前調査で「年末年始に国内旅行に行く/たぶん行く」と回答した人を抽出し本調査を実施)

調査内容: 2020年12月23日から2021年1月3日に実施する1泊以上の旅行

(海外旅行、 商用、 業務等の出張旅行は除く)

調査方法: インターネットアンケート調査