“愛”とは何かを問い続ける「一木けい」の新たな代表作!!『9月9日9時9分』

《推薦文》影を帯びながらも、なんてまばゆい小説だろう。痛みを抱えて生きる私たちに寄り添って、「きっと大丈夫」とささやきかけてくれるようだ。――三浦しをん

世界でいちばん大切な家族を裏切ってまで、 どうして愛してしまうのか。

愛される快感と、 「人」を想う難しさ――。

バンコクからの帰国子女である高校1年生の漣は、 日本の生活に馴染むことができないでいた。 そんななか、 高校の渡り廊下で見つけた先輩に、

漣の心は一瞬で囚われてしまう。

«彼はもうすぐそこにいた。 上履きの先端の色は緑。 襟に2Cのクラス章が付いている。 細長い手脚と、 体温の低そうな肌。 笑っていないのに笑窪がある。

もしかすると笑窪ではなく、 単に痩せすぎて余分な肉がないだけかもしれない。 彼の瞬きはゆっくりで、 回数そのものが少なかった。

すれ違う直前、 視線が激しく衝突した。

心地好い風が吹き、 木漏れ日を揺らめかす。

反射的といっていいくらい素早く、 ルンピニ公園の景色が広がった。

極彩色の花びらがふるえ、 どこからか炭火焼のガイヤーンの香りが漂ってくる。

その公園へ行くのは、 決まって休日の朝だった。 ピンと尖って瑞々しい岸部の草を踏み、 つめたい朝露で足をぬらした。 歩き疲れて小腹がすくと、

屋台で食べ物を買った。 父はシーフードのお粥、 母は緑の酸っぱいマンゴー、 私はロティ。 上品で豪華な日本のクレープもおいしいけれど、 カリカリで練乳たっぷり、

甘い甘いタイのロティが私は大好きだった。 どぼんと何かが水へ落ちる音がして顔を向けると、 恐竜みたいなオオトカゲが頭だけ出して、

ゆっくりと向こう岸へ泳いでいく。 私はその、 悠々たる後ろ姿を見送る。 ゆったりとした時の流れ。 ルンピニ公園には私の好きなタイ生活が詰まっていた。

足を止めて、 振り返る。

オオトカゲが遠ざかるみたいに、 彼の背中がどんどん小さくなっていく。 »

(本文より)

漣は先輩と距離を縮めるが、 あるとき、 彼が好きになってはいけない人であることに気づく。 それでも気持ちを抑えることができない漣は、

大好きな家族に嘘をつくようになり・・・。

忙しない日本でずっと見つけられずにいた、 自分の居場所。 それを守ることが、 そんなにいけないことなのだろうか。

過ぎ去ればもう二度と戻らない「初恋」と「青春」を捧げ、 漣がたどり着いた決意とは?

バンコク在住の著者だからこそ描けた、 国境を超えた名作!!

「進まぬ原稿に焦りバンコク某宿に缶詰になったときのこと。 チェックイン時『仕事をしに来たのでしずかな部屋を希望します』と伝え、 入室後 don’t

disturb の札を提げた。 コーヒーを淹れパソコンをひらき、 用心に用心をねてシャボン玉のような要塞を作り上げる。 集中に入った。

数か月に一度の集中が来た、 と高揚した瞬間、 ドアをノックするリズミカルな音。 シャボン玉は割れてしまった。 時間がない。 どんな言葉を選べば伝わるだろう。

物語を追い出し脳内でタイ語を組み立て、 口の中で発音を予習し、 ドアを開けた。

そこに立っていたのは、 満面の笑みを浮かべたスタッフ二人。

『がんばってね!』カオニアオマムアンが差し出され、 『パソコン使うならこっちの光の方が目に良いよ』と新たなライトスタンドを設置してくれた。

何がどう転がるかわからない。 探して、 失敗して、 許され、 許し、 進んでいく。

執筆は大いに捗り、 『9月9日9時9分』が出来上がった」

(著者「エッセイ」

https://shosetsu-maru.com/yomimono/essay/9999より)

絶賛の声、 続々!! * 「魅力的なラストには、 初恋の果実を素手でもいで、 一生残るかもしれない苦みを受け入れた。 少女の確かな成長があらわれている」――浅野智哉さん(ライター)

* 「最高の幸せが目前にあるのに、 受け取れない。 大切なものが多すぎて。 全てに素直に向かい合う漣も、 支える家族も友人も、

最高でした」――山内百合さん(丸善・お茶の水店)

* 「純粋な『物語』の魅力に満ちた本書、 傑作の一言です」――山本 亮さん(大盛堂書店)

* 「私の中で、 息をする方法を忘れてしまった時に必要な、

『家族』と『祈り』の物語たちにまた新しく大切な一冊が加わった」――平野千恵子さん(紀伊國屋書店・イトーヨーカドー木場店)

* 「〈大切な人を、 どうしたら本当に大切にできるのか〉それを悩み考え抜いて“モアベター”を探ってゆく。

そのプロセスを温かく見つめた物語だと思う」――沢田史郎さん(丸善・お茶の水店)

『9月9日9時9分』

著/一木けい

定価:1980円(税込)

判型/頁:4-6/402頁

ISBN9784093866095

小学館より発売中(3/12発売)

本書の紹介ページはこちらです↓↓↓

https://www.shogakukan.co.jp/books/09386609

【著者プロフィール】

一木けい(いちき・けい)

1979年福岡県生まれ。 東京都立大学卒。 2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。

同作を収録した『1ミリの後悔もない、 はずがない』が業界内外から絶賛され、 華々しいデビューを飾る。

他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』がある。 現在、 バンコク在住。