ビール苦味成分「熟成ホップ由来苦味酸」による認知機能改善とストレス状態改善を、臨床試験で確認
キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典)のキリン中央研究所(所長 吉田有人)は、 順天堂大学と連携して、
ビール苦味成分として知られる「熟成ホップ由来苦味酸」が、
物忘れの自覚症状を有する健常中高齢者の認知機能の一部である注意力およびストレス状態を改善することを明らかにしました。
当社はこの研究成果を2021年3月18日(木)から21日(日)に開催された「日本農芸化学会2021年度大会」で発表し、
一般演題1,299件の中から選定された31演題に贈られるトピックス賞を受賞しました。
2018年にもホップ苦味酸イソα酸の認知機能に関する取り組みについてトピックス賞(第243号)を受賞しており※1、
ホップの認知機能に関する研究では本学会より二度目の受賞となります。
※1発表情報
発表タイトル:ビール苦味成分イソα酸の海馬ドーパミン産生を介した記憶学習機能改善作用
発表者:阿野泰久、 星朱香、 内田真一、 山田浩司、 近藤恵二
学会名:日本農芸化学会2018年度大会
●研究背景
超高齢社会である日本国内において、 認知症や加齢に伴う認知機能の低下は大きな社会課題となっています。 認知症には有効な治療方法がないことから、
食事などの日常生活を通じた認知機能の維持改善に注目が集まっています。
これまでの取り組みで、 ビール苦味成分であるホップ苦味酸に認知症予防効果や認知機能改善効果、 抑うつ改善効果を見いだしてきました。 しかしながら、
ヒトでのエビデンスは十分ではなかったため、 今回、 物忘れの自覚症状を有する健常中高齢者を対象に、 ホップ由来苦味酸の1つである熟成ホップ由来苦味酸が、
認知機能および気分状態へ及ぼす影響を評価するランダム化二重盲検比較試験※2を行いました。
※2 参加者を無作為に偽薬と実薬の群に分け、 試験完了までいずれの群かわからない、 治験で用いられる試験方法
●研究概要
当社は順天堂大学と連携し、 物忘れの自覚症状を有する健常中高齢者(SCD; Subjective Cognitive Decline)を対象に、
ランダム化比較試験を二重盲検で実施し、 熟成ホップ由来苦味酸を含むサプリメントの摂取が認知機能および気分状態に及ぼす作用を検証しました。 その結果、
摂取12週目において分配性注意機能を評価する符号数字モダリティ検査の結果が熟成ホップ由来苦味酸の摂取群では、 プラセボ群と比較して有意な高値を示しました。
また、 唾液中ストレスマーカーの1つであるβエンドルフィン濃度が熟成ホップ由来苦味酸の摂取群で、 プラセボ群と比較して有意な低値を示しました。 さらに、
アミロイドβと結合してシナプス毒性の抑制などに関与するトランスサイレチンの血中濃度が摂取12週目に熟成ホップ由来苦味酸の摂取群で、
プラセボ群と比較して有意な高値を示しました。
これまで東京大学などと実施した研究報告で、
熟成ホップ由来苦味酸は脳腸相関の活性化を通じて認知機能改善やアルツハイマー病予防効果を示すことが報告されていましたが※3、
本臨床試験でも同様の機序によって認知機能やストレス状態が改善したと考えられます※4。
※3 文献情報
論文タイトル:Hop bitter acids containing a β-carbonyl moiety prevent
inflammation-induced cognitive decline via the vagus nerve and noradrenergic
system.
発表者:阿野泰久、 大屋怜奈、 近藤恵二、 高島明彦、 中山裕之、 他
雑誌名:Scientific Reports, 2020 Nov 18;10(1):20028. doi:
10.1038/s41598-020-77034-w.
※4 2020年6月12日付リリース「物忘れの自覚症状がある人を対象としたヒト試験でビールに含まれる「熟成
ホップ由来苦味酸」が認知機能と気分状態を改善することを初めて確認~順天堂大学との共同研究~」
https://www.kirinholdings.co.jp/news/2020/0602_01.pdf
●今後の展開
キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、 「食から医にわたる領域で価値を創造し、
世界のCSV※5先進企業になる」ことを目指しています。
その実現に向けて、 既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、
キリングループが長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」の技術をベースにして、 人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス領
域」(ヘルスサイエンス事業)の立ち上げ、 育成を進めています。 ヘルスサイエンス領域では、 「免疫」、 「脳機能」、 「腸内環境」を重点領域に定め、
さまざまな研究開発を行っています。 今後は、 キリングループ独自素材である熟成ホップ由来苦味酸を活用し、
大学や自治体などと連携しながら脳の健康サポートが可能な社会の実現に向けた取り組みを進めます。
※5 Creating Shared Valueの略。 お客様や社会と共有できる価値の創造。
●「キリン脳研究」について
日本の平均寿命は伸び続けており、 4人に1人が高齢者※6の「超高齢社会」となっています。 2025年には高齢者のうち5人に1人が認知症になる※7と推計され、
健康寿命の延伸は社会課題となっています。
キリングループでは、 日々の明るい気持ちや悩みは脳の働きと密接に結びついていることに着目し、
ヘルスサイエンスを中心とした「脳の健康」を守り新たなよろこびを生み出す「キリン脳研究」を進めています。
「キリン脳研究」は、 キリンならではの発想と技術で脳の健康を守ることを通じ、 社会課題の解決に向けて貢献するとともに、 一人ひとりが社会の中で、 自信や希望、
そして気持ちのゆとりを感じながら暮らせるこころ豊かな社会の実現を目指していきます。
※6 内閣府 令和2年版高齢社会白書
※7 厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業. 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関す
る研究.平成26年度総括・分担研究報告書. 2015.
キリングループは、 自然と人を見つめるものづくりで、 「食と健康」の新たなよろこびを広げ、 こころ豊かな社会の実現に貢献します。
-記-
1.発表演題名 「脳腸相関を活性化するホップ苦味酸摂取による注意機能およびストレス状態の改善」
2. 学会名 「日本農芸化学会2021年度大会」
3.発表日 2021年3月18日(木)~21日(日)
4.発表者 キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 福田隆文、 阿野泰久
順天堂大学医学部 大沼徹、 新井平伊、 福島健康管理センター 近藤澄夫
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