Glico Co育て NEWSLETTER (第6号)「子どものココロとカラダの健やかな成長」への想いをカタチに
(第6号)「子どものココロとカラダの健やかな成長」への想いをカタチに 「科学からひも解く“男性育児”」をテーマに京都大学大学院 教育学研究科
明和政子教授を招き、 セミナーを実施 江崎グリコは、 今から約100年前の1922年に創業しました。 菓子から始まった事業は、
100年にわたり領域を拡げながら、 今では、 アイス、 乳製品、 加工食品などへと事業を展開するまでに至っています。 そうした中、
100年間で変わらないものの一つが「子どものココロとカラダの健やかな成長」への想いです。 このニュースレターでは、 当社の原点であり、
今後も変わらず最重要テーマの一つであり続ける「子どものココロとカラダの健やかな成長」に関して、 複数号に分けて情報をお届けしています。 今回は、
2021年11月2日(火)に、 京都大学大学院 教育学研究科
明和政子教授にご講演いただいたセミナー『科学からひも解く“男性育児”』の内容から「親性脳(おやせいのう)」についてご紹介します。
* 人間科学の分野から“男性育児”を考える
みなさんは、 「親性脳(おやせいのう)」という言葉をご存知でしょうか。 元々、 人間には子育てをする本能があり、
親になれば自然に母性や父性が芽生えるものと考えられてきました。 しかし、 近年の研究で、 人間の脳には、
子育てする時に目立って活動する神経ネットワークが存在することがわかってきました。 この脳内ネットワークは「親性脳」と呼ばれています。 この「親性脳」を提唱し、
その重要性について指摘するのが、 京都大学大学院教授の明和政子先生です。 今回、 親性脳と子育ての関係性、 特に父親と赤ちゃんとの関係性や、
それが私たちの社会にもたらす価値について、 お話をうかがいました。
-「親性脳」とは、 どのようなものでしょうか。
「親性脳」とは、 わかりやすく言えば、 育児場面でよく使われる脳内のネットワークです。 「親性脳」は、 親になった時点で自然につくられるものではなく、
育児経験を通じてしだいに形成されていきます。 こうしたことがわかってきたのは、 この数年で、 育児が自然科学のアプローチから研究されるようになってきたからです。
親性脳は、 子育てに関わることで誰もが獲得し得るものであり、 そこには生物学的な性差(男女差)はありません。
こうした科学的事実をふまえ、 「母性」や「父性」という言葉に代わり、 「親性」がいつからどのように発達していくのか、
そこにはどの程度の個人差があるのかについて、 今、 世界的に研究が進められています。
-「親性」の発達に、 男女差は存在しないのですね。 しかし、 現代でも「育児は女性がするもの」という考え方は、 未だに根強いものかと。
その背景には、 二つの大きな「誤解」がありました。 ひとつめは、 ヒトという生物(ホモ・サピエンス)は、 母親だけが子育てを担う形で進化してきた生物である、
という誤解です。 ヒトは進化の過程で、 母親だけでなく、 集団でともに子どもを育てる「共同養育」によって命を繋いできたのです。
ヒトは出産後、 授乳を続けていても排卵が短期間で起こります。 わずか数年で、 再び出産できる体の状態が整うのです。 その一方で、
ヒトが自立するまでには大変長い時間を要します。 つまり、 母親は出産の間隔を縮めて多産し、 出産後は、 集団で育児を行うことで子孫を増やしてきたのです。
この「共同養育」こそが、 人類にとって、 自然な子育ての形といえます。
* 子育ては女性だけのものではない
-「ワンオペ育児」や「孤育て」のように、 母親にだけ育児の負荷がかかることは、 進化の観点から見ても、 人類にとって非常に不自然なのですね。
現代の育児スタイルは、 戦後に起こった社会システムの急速な変化が大きく影響しているといえます。 戦前までの日本は、 父母や多くの兄弟姉妹に加え、
祖父母や叔父叔母などが同居する大家族(多世代同居)が一般的でした。 地域コミュニティとのつながりも強く、 子どもが産まれると、
家族だけでなく隣近所の大人たちが必要に応じて育児を助けるのはごく自然なことでした。 授乳中の女性同士が、 互いに「もらい乳」をすることも珍しくありませんでした。
しかし、 戦後、 核家族化が進んだことで、 共同養育の場が失われていきました。 現代の母親は、 出産だけでなく、
子育てをも一手に担わざるを得ない状況に置かれています。 今こそ、 現代版の新たな共同養育のしくみを早急につくることが必要です。
―こうした状況は「女性の方が男性より育児に適している」という考え方にさらに拍車をかけていると感じます。
ふたつめの誤解は、 いまだに多くの人が「(生物学上の)女性には母性本能が生まれつき備わっている」と、 根拠なく信じていることです。
はじめにお伝えしたように、 「親性脳」にははっきりとした性差は存在しません。 この事実は、 脳の活動をfMRI(※)で調べる、
または育児に関連する内分泌ホルモンであるオキシトシンの分泌を調べた研究からも支持されています。 いわゆる「母性神話」は、 科学的には証明されていないのです。
ヒトは誰しも、 男女という性別に関係なく、 共同養育によって親としての脳と心も育まれていくのです。
根拠なき先入観で母性の存在を疑わないまま信じてきた時代が長く続きました。 親をとりまく仲間がともに育児を担いながら、
親性も育んでいくことの理解を社会全体で深めていく必要があります。
※fMRI:強い磁石と電波を用いて体内の状態を画像にする検査のこと
※参考文献:Françoise Diaz-Rojas, F., Matsunaga, M., Tanaka, Y., Kikusui, T., Mogi,
K., Nagasawa, M., Asano, K., Abe, N., & Myowa, M. (2021) Development of the
paternal brain in expectant fathers during early pregnancy, NeuroImage, 225,
117527,
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2020.117527.
* 親性脳発達のカギは、 「経験」の積み重ね
―親性脳の発達が男女差でなければ、 そのばらつきには何が影響を与えているのでしょうか。
親性脳の発達には、 生物学的な性差はなく、 むしろ個人差のほうが圧倒的に大きいことがわかっています。 親性脳を育てるためには、 子育て経験の積み重ねが大切です。
乳児の親を対象にした海外の研究では、 性差にかかわらず、 育児経験が多い親ほど、 親性脳を構成するネットワークが強く活性化することが示されています。
男性も育児を繰り返し経験することで、 子育てに適した脳と心が育まれるのです。
パンデミック以前に行った調査ではありますが、 過去2年以内に親戚や友人の子どもと触れ合った男性は、
パートナーの出産前から親性脳の発達がより進んでいることもわかってきました。 逆に、 勤務時間が長い男性は、
勤務時間が短い男性に比べて親性脳の発達が芳しくない傾向も確認されています。
―では、 親性能の発達にはどんな環境が必要なのでしょうか?
親性脳の発達には、 子どもと触れ合う経験だけでなく、 それぞれのライフワークスタイルや生理状態などさまざまな要因が関与しています。 男性の育児参加を促し、
親性脳を現代社会で育てるためには、 個人差を考慮した「親性教育プログラム」の開発と実践が重要となります。
「育児に参加しましょう」「母親をサポートしましょう」といったメッセージを一律的に男性に送るだけでは効果は見込めません。
* 親性脳の発達には、 どんな「育児行動」が重要か?
―育児に対する意欲や関心が高くない男性でも、 親性脳を発達させるために効果的な育児行動はどのようなものになりますか。
「オムツ替え」と「授乳」。 この2つの営みは特に効果的です。 なぜなら、 これらの行動は、 親子の直接的な身体接触をともなうからです。
オムツ替えや授乳の際、 子どもはやさしく触れられたり抱っこされたりしながら、 同時に、 笑顔や声かけを経験します。 授乳場面では、
哺乳によって赤ちゃんの血糖値が上昇し、 体の内部に心地よい感覚が生じます。 さらに、 身体接触はオキシトシンの分泌も高めますので、
まさしく赤ちゃんにとっては心地よさがもっとも強く感じされる絶好の機会です。 このタイミングで、 親から向けられる笑顔や声は、
体の心地よさと結びついて赤ちゃんの脳内に記憶されていきます。 すると、 親の笑顔を見たり声を聞いたりするだけで、 心地よさや安心感を覚えるようになる。 これが、
いわゆる愛着形成につながっていくわけです。
―男性がミルクをあげる場合でも、 同様の効果は得られますか。
もちろんです。 「誰が授乳をするのか」は、 関係ありません。 なじみのある誰かが、 赤ちゃんにやさしく触れながら、 ほほ笑み、
声を掛けながら授乳することが重要なのです。
子どもが安心して任せられるなら、 親以外が与えても構わない。 要するに、
子どもにとっていつも自分を受け止めてくれる「特定の誰か」と「安定した信頼関係が築ける」ことが大事なことです。 こうして築かれた愛着関係は、
その後の自立心や社会性の発達にも影響します。 乳児期にしっかりとした愛着形成を築くことは、 その後の対人関係の基盤となるため非常に重要です。
* 親性脳の発達に伴う、 私たちの「脳の変化」
― 大人が親性脳を発達させることは、 子どもの発達にとっても好ましい環境につながるのですね。 ところで、 親性脳が発達すると、
私たちの脳や行動は具体的にどのように変化しますか。
下の図は、 親性脳の活動をfMRIでの計測により可視化したものです。 黄色の円は、 「情動的処理」といい、
子どもの心の状態に対して「無意識的・反射的」に活性化する部分です。
他方、 ピンク色の部分は「メンタライジング」と呼ばれ、 子どもの状況などを「客観的に・意識的」に推論し、 判断することに関わる脳部位です。 今、
何をすべきかを論理的、 合理的にイメージし、 適切な行動選択をすることにつながります。 この二つの脳内ネットワークがうまくつながり、 機能することで、
親性脳が発達していきます。
育児経験が少ない男性は、 黄色い部分の活動が弱く、 赤ちゃんの様子に脳が敏感に反応しません。 また、 育児経験が乏しいので、 今、
何をしたらよいのかをイメージすることも難しくなります。 赤ちゃんを泣き止ませることができないなど、 自分が思ったような結果が得られないと、
育児に対する動機もますます低下する、 といった悪循環となるのです。
―こうした父親の行動の積み重ねは、 育児中の母親のイライラを助長してしまいますね。 情動的処理とメンタライジング、
お互いがうまく機能するためには何が必要でしょうか。
育児経験を積めば積むほど赤ちゃんの様子に敏感となり、 また、 何が起こっているかを前頭前野でイメージできる選択肢が増えていきます。
泣いている赤ちゃんにすばやく気付き、 多くの選択肢から最適な行動選択ができるようになるのです。 こうした脳の働きは、 育児に限定されない点はとても重要です。
たとえば、 ビジネスにおいても同様なことが脳で起こっています。 育児は、 予測不可能なハプニングの連続です。 育児の臨機応変な課題解決力を身につけることは、
仕事のパフォーマンス向上にも通じます。 つまり、 産休や育休は、 ビジネスパーソンとしての人材価値を高める絶好の教育機会ともなるのです。
育児休業制度の拡充で従業員に子育て経験を積ませることは、 企業の利益にもつながるはずです。
―日本ではむしろ、 子育てと仕事は両立できないものと捉えられています。 そうした背景も、 男性の育児参加を阻む大きな要因になっていると感じます。
現代の日本において、 仕事では業績評価の仕組みが整っていますが、 子育ての日常では、 育てる側は誰かから褒められることはほとんどありません。 唯一の支えは、
子どもが満面のほほ笑みを見せてくれることでしょう。 親としての自信が高まる大事な瞬間ですが、 子どもは期待どおりのことをしてくれる存在ではありません。
どんなに頑張っても、 赤ちゃんが泣き止まないことなど日常茶飯事です。 子育ては、 期待する報酬が得にくい一方で、 それを継続する意思と忍耐が必要となる営みです。
共同養育により子どもを育てていた時代には、 子育てをともに担ってくれる仲間から共感され、 支えられることで子育ての動機を維持してきたと思います。
みんなで子どもを育てる信頼関係のなかで親性脳はゆっくりと育まれてきました。 それは、 次の子を出産したいという動機の高まりにもつながっていたと思います。
―子育ても認められる社会の実現は急務ですね。
今必要なことは、 子育ては、 社会での自分の成功をあきらめることではなく、 むしろ、 自分自身を成長させ、 自分の価値を高める機会であるという事実を、
社会が積極的に理解することです。 そのためには、 企業が、 従業員が、 育児を通じて成長することを全力でサポートするしかけづくりが必要です。
企業による男女の産休・育休制度の拡充と取得率の向上はもちろん、 育児経験をふまえた個々の成長を客観的に評価する指標の導入なども、 ぜひ期待したいところです。
* 「親性脳教育」の必要性
― 子育てを評価する仕組みとは、 具体的にどのようなものでしょうか。
経験を積めば積むほど、 理想的な親性脳を発達させることができるとは限りません。 何度も伝えていますが、 子どもだけでなく、
親も社会のなかでゆっくりと育まれるべき対象なのです。
もっとも必要なことは、 社会が親性に対する科学的な理解を深め、 社会がなすべきこと、 できることを具体的に議論する空気を社会全体で高めることです。 私は、
ある企業との協働により、 個に適したかたちで親性を育む「親性教育コンテンツ」を開発しています。 男女共同参画が目指され、
男性の育児休暇取得にも少しずつ理解が広まっています。 将来的には、 企業が産休、 育休をとる従業員に対して、
こうした教育コンテンツをはじめ親性発達を支援する機会を積極的に提供いただきたいと思います。 まさしく、 産休・育休を国内研修のように位置付け、
サポートする支援です。 また、 親性教育プログラムを初等・中等教育段階から積極的に導入することも、
深刻化する日本の少子化対策としてきわめて有効に働くと思っています。
* ~みんなで協力して子育てする社会の実現を目指す「Co育てPROJECT」について~
Glicoグループは“事業を通じ社会に貢献する”をテーマに、 創業以来、 子どものココロとカラダの健やかな成長に寄与する事業に取り組んできました。
妊娠からの1000日間を子どもの基礎をつくる大切な時期と捉え、 その時期の子育ての課題解決を目指す「Co育てPROJECT」を2019年2月にスタート。
社外においては、 産官学と連携した商品・サービスの提供、 社内においては全社員が1ヵ月の育休を取得することを必須化した制度「Co育てMonth」の導入や、
「男性育休」をテーマにした社内イベントなども開催。 社内外において、 家族のコミュニケーションや育児協同を促し、
良好な関係づくりを促進する取り組みとして展開しています。
<Glicoの「 Co育て 」を支援する主な商品・サービスについて >
■日本初の乳児用ミルク「アイクレオ 赤ちゃんミルク」
哺乳瓶に注ぐだけで、 いつでも・どこでも・誰にでも、 赤ちゃんにミルクを飲ませることができる点が特長です。 その特長から、
日常の育児負担の軽減に寄与するとともに、 誰でも簡単に授乳できるので、 男性の積極的な育児参画への促進効果が期待されています。
※母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です。 「アイクレオ赤ちゃんミルク」は母乳が不足したり与えられない場合に母乳の代わりをする目的で作られたものです。
■妊娠期からはじまる、 チーム作りの手助けのための「Co育てプログラム」
「Co育てプログラム」は、 パパママを中心とする家族を対象に生まれる前から
一緒に「Co育て」ができるように考えられた、 妊娠中期・後期・出産後の合計3クラスで構成される体験型講座。
■子育てアプリ「こぺ」
「こぺ」は、 子どものココロとカラダの健やかな成長のために、 子育てをするパートナー間において、 すれ違いを生むさまざまな原因を解消し、
よりよい子育て環境づくりを支援する目的で、 2019年2月より無償提供を開始した子育てアプリです。
◆ Glico Co育て NEWSLETTER バックナンバー ◆
第一号: 「栄養菓子『グリコ』と液体ミルクをつなぐもの 」
https://www.glico.com/jp/csr/coparenting/activities/32189/
第二号: 「1ヵ月間育休取得必須化でCo育て推進」
https://www.glico.com/jp/csr/coparenting/activities/32193/
第三号:“日本初”の液体ミルクを実現させた開発者の想い
https://www.glico.com/jp/csr/coparenting/activities/32281/
第四号:子育てアプリ『 こぺ 』開発者インタビュー
https://www.glico.com/jp/csr/coparenting/activities/32337/
第五号:多胎支援などを行うNPO法人インタビュー~ 育児のあり方を変える「液体ミルク」の価値 ~
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