立腺癌を病理組織デジタル標本から検出可能に~「Diagnostics / 特集号」に論文が掲載 ~
デジタル病理支援ソリューション「PidPort」を提供するメドメイン株式会社 ( 本社:福岡県福岡市、 代表取締役CEO: 飯塚 統、 以下「メドメイン」)は、
Deep Learning(深層学習)の転移学習を用いることで、 前立腺の針生検病理組織デジタル標本において、
前立腺癌を極めて高精度に検出する人工知能の開発に成功しました。
また、 この開発に関する論文をMDPI(
)が発行するDiagnosticsに投稿し、 2022年3月21日にArtificial Intelligence in Pathological Image
Analysisの特集号にて掲載されたことをお知らせします。 (掲載箇所:
https://www.mdpi.com/2075-4418/12/3/768)
■本研究成果の概要
深層学習及び転移学習を用いることで、 極めて少数の教師データによる学習を行い、 また学習時にアノテーションデータを付加することなく、
前立腺病理組織デジタル標本における、 前立腺癌を高精度に検出する人工知能の開発に成功しました。
■本研究の背景
本研究は、 2021年にCancers誌(
https://doi.org/10.3390/cancers13215368)およびDiagnostics誌(
https://doi.org/10.3390/diagnostics11112074
)に発表した「転移学習を用いた乳腺浸潤性乳管癌および大腸低分化腺癌の検出を可能にする人工知能の開発」に引き続く一連の転移学習を用いた人工知能開発の成果です。
2021年7月に国際発表した「転移学習の基盤技術創出」に関する研究論文(
https://proceedings.mlr.press/v143/kanavati21a.html)を応用し開発しました。
わが国における前立腺癌による死亡率(人口10万対)は20.8人(2019年)で、 2004年の14.4人から増加しており、 年齢階層別死亡率(2019年)では、
70歳を超えてから急激な増加がみられます(
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/20_prostate.html)。
前立腺針生検による病理組織診断の結果は、 前立腺癌の診断・治療決定において極めて重要です。 本研究の目的は、
臨床的汎用性の高い前立腺針生検デジタル標本において、 前立腺癌の検出を可能にする人工知能を、 深層学習を用いて開発することにあります。
■本研究の内容
本研究では、 国内の複数の医療機関から、 前立腺針生検組織標本の提供を受け、 partial fine-tuning法(Proceedings of
Machine Learning Research 143:338-353, 2021)による転移学習を行うことで、
病理医による精密且つ大量のアノテーションデータを用いることなく、 前立腺癌を検出する人工知能を開発しました。 また、 開発した人工知能は、
教師データとは異なる検証症例ならびに公的データベース(TCGA)からの症例をもちいて、 精度の検証を行いました。
■本研究の成果
当社で開発済みの病理AIモデルの中で、 大腸低分化腺癌を検出する深層学習型人工知能モデル(
https://doi.org/10.3390/diagnostics11112074
https://doi.org/10.3390/diagnostics11112074)が一定の精度で前立腺癌細胞を検出したため、
このモデルをもとにした転移学習により前立腺癌を検出する深層学習型人工知能モデルを開発しました。 開発したモデルを検証したところ、 検証症例において、
ROC-AUCが0.98前後という極めて高い精度が得られました。 また、 ヒートマップにより表示された人工知能が検出した前立腺癌を示唆する領域は、
複数の病理医による検証の結果、 妥当であることが確認されました。 以上のことから、 前立腺針生検病理組織デジタル標本において、 極めて精度高く、
前立腺癌を検出する人工知能の開発に成功しました。
本研究成果のポイントは、 転移学習を用いることで、 先行研究と比較して極めて少数の教師データにより、 極めて高精度な深層学習型人工知能を、
アノテーションデータを付加することなく開発することに成功したことです。 本研究成果は、 医用画像の様な希少性の高いデータであっても、
効率的に人工知能の開発が行える可能性を強く示唆しています。
今回開発した人工知能モデルの検証を、 さらに複数施設並びに大規模症例にて行い、 検証を進めるとともに、
前立腺癌における飛躍的な人工知能の開発に繋げてまいります。
■ 共同研究者のコメント ~ 本研究の意義と今後の展望について ~
栃木県立がんセンター 病理診断科
阿部 信
前立腺は膀胱の下で尿道を取り囲むように存在するクルミ大の臓器です。 検診などでPSAが高値を示し臨床的に癌の存在が疑われたならば、
経直腸的あるいは経会陰的に前立腺に針を刺して組織を採取してくることになります。 針生検1本では癌を検出できない可能性が高く、 多くが12本程度、
施設によっては20本を超える検体が採取されることもあります。 胃や大腸からの生検であれば米粒サイズの組織片1つで癌の診断が得られることが多いですが、
前立腺生検は1.5cm程度の細長い検体を合計12本以上見ることになります。 そしてそれぞれの検体に対して癌の有無、
癌が存在しているのであればその評価(Gleason score)を記載することになります。 前立腺生検の診断は、
他臓器の生検の診断と比べて量的負担が圧倒的に高く、 病理医にとって時間の取られる検体の一つです。 病理医の負担を少しでも軽減でき、
なおかつダブルチェックの機能を担える相棒のようなAIを作りたい、 それが本研究の出発点です。
本研究の注目すべきポイントは大きく分けて2つあります。
1つ目は、 複数の医療機関の検体を用いた検証の結果、 前立腺針生検の腺癌検出系として、 ROC-AUC 0.967以上を達成していることです。
開発した病理AIモデルの検証を、 異なる3病院の検体、 そして公的データベースであるThe Cancer Genome Atlasを用いて実施したところ、
いずれでも良好な成績を得ています。 通常、 各病院によってHE染色の染まり方や組織の厚みが異なることはしばしば経験されることですが、
今回開発を行った病理AIモデルでは、 日常業務に問題なく使えているHE染色のデジタルスライドであれば安定して高い精度で前立腺癌の検出を行うことが可能です。
2つ目は「転移学習」と「弱教師あり学習」という2つの手法を組み合わせたことで、 比較的短時間かつ少数の症例で検出モデルの作成が可能であったということです。
従来、 腺癌検出系の開発には膨大な手間がかかりました。 過去には、 バーチャルスライド数千枚に対して、
病理医が癌細胞を丸でひたすら囲み正常腺管と分け…という気の遠くなるような作業が必須でした。 本研究では、
すでに開発された他臓器の腺癌検出モデルから前立腺癌の検出に最もフィットするモデルを選び、
前立腺用にチューンアップすることで検出モデルの開発に成功しています(転移学習といいます)。 病理医は個々の癌腺管をマーキングすることなく、
癌が存在するかしないかの情報を付加しただけです(弱教師あり学習といいます)。 2つの手法を組み合わせたことで、
従来かかっていた開発の手間や作業を大幅に削減することに成功しています。 これはまた、
既存の病理AIモデルが有機的に結合しながら新たなモデルの開発へと繋がっていく、 そんな可能性を示唆しています。
病理診断支援AIと共に日常の病理診断を行い、 手間が省け見落としも防ぐことができる、 そんな未来が訪れることを願ってやみません。
今後も新たなモデルの開発は続きますが、 増え続ける診断業務の一端を担えるようなAIの出現はすぐそこにあると信じています。
■原著論文
▼論文タイトル:A Deep Learning Model for Prostate Adenocarcinoma Classification in
Needle Biopsy Whole-Slide Images Using Transfer Learning
▼日本語訳:前立腺針生検病理組織デジタル標本における「前立腺癌」の検出を可能にする深層学習を用いた人工知能の開発
▼DOI:
https://doi.org/10.3390/diagnostics12030768
■著者・所属
<栃木県立がんセンター 病理診断科>
阿部 信
<メドメイン株式会社>
常木 雅之、 Fahdi Kanavati
■会社概要
【会社名】メドメイン株式会社 (Medmain Inc.)
※経済産業省 J-START UP 選出企業
https://www.j-startup.go.jp/startups/
【設立日】2018年1月11日
【事業内容】医療ソフトウェア・クラウドサービスの企画・開発・運営および販売
【代表取締役/CEO】飯塚 統
【所在地】[東京オフィス] 東京都港区南青山2-10-11 A青山ビル2F / [福岡オフィス] 福岡県福岡市中央区赤坂2-4−5 シャトレサクシーズ104
■各種関連サイト
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