東京・愛知で大回顧展が開催される現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒターに迫る。『美術手帖』7月号はその画業の到達点《ビルケナウ》に焦点を当てて特集。

株式会社美術出版社(東京都品川区)は、 6月7日(火)に『美術手帖』7月号を発売。 日本では16年ぶり、

東京では初めて美術館での個展が開催される「ゲルハルト・リヒター」を特集する。

『美術手帖』7月号

『美術手帖』7月号

* 特集「Gerhard Richter」

ゲルハルト・リヒターは、 1932年ドレスデン生まれ、 ケルン在住の画家。 青年期をナチスや共産主義体制下のドイツで過ごしたことで、

ドイツの歴史との関係が制作の中心的なテーマのひとつとなった。 50年代初頭にドレスデン芸術アカデミーで社会主義リアリズム絵画を学んだのち、 西ドイツに渡る。

60年代前半には、 ジグマール・ポルケやコンラッド・フィッシャー(リューク)とともに「資本主義リアリズム」を提唱した。

同じころ、 写真をもとにしたイメージにぼかしなどの技法を加える「フォト・ペインティング」で高い評価を受け、

70年代には「アブストラクト・ペインティング」を発表。 抽象絵画と具象絵画を行き来しながら、 今日まで制作を続けている。

今年、 日本で16年ぶり東京では初となる美術館での個展開催が決まっており、 注目が高まっているリヒター。 (東京国立近代美術館[6月7日~10月2日]、

豊田市美術館[10月15日~2023年1月29日])。 本特集では、 60年にわたる画家としての活動と多くの制作の先、

その画業の到達点といえる大作《ビルケナウ》(2014)に焦点を当てる。

《ビルケナウ》は、 家族を含む自身の記憶とドイツの歴史、 その光と影に向き合い続けたリヒターが、

ついにアウシュヴィッツとイメージの問題に真正面から取り組んだ作品だ。 そのタイトルはアウシュビッツのビルケナウ強制収容所の名前に由来し、

ここから秘密裏に撮影されて持ち出された4枚の白黒写真のイメージと、 その「真の恐怖」を扱っている。

PART1に掲載されるドイツ文学研究の西野路代の論考では、 その制作プロセスとこれまでの画業を手がかりに、

カール・ヤスパースの「四つの罪の概念」とそれを超出する「自然」という契機をキー概念として《ビルケナウ》を読み解いていく。

《ビルケナウ》発表の後、 リヒターはこの四連画を「93のディテール」のみで構成された驚くべき作品集として展開した。 PART2では、

彼にとって思索の重要な道具であり、 もうひとつの制作でもあるアーティストブックを紹介。 リヒターの代表的なアーティストブック14冊から、

彼の思索の軌跡を辿ることができよう。

2009年の個展で抽象絵画を発表してから4年にわたり、 リヒターには絵を描かない期間があった。 その後、 2014年夏の《ビルケナウ》を特異点として、

その年の12月から2015年にかけてもう一度、 抽象絵画を描きはじめる。 そして、 新作ドローイングとともに2016年の個展で発表を行った。

描かずに制作を続けた4年間は、 リヒターにとってどのような時間だったのか。 PART3で、 抽象絵画を「ふたたび始めること」について考察した、

ディーター・シュヴァルツの論考を翻訳掲載する。

第2特集では、 1960年代後半から始まるアースワーク(ランドアート)の中心的存在だったロバート・スミッソンが、

ランドスケープ・アーキテクトのフレデリック・ロー・オルムステッドを論じた、 1973年のテキストを翻訳掲載する。

19世紀後半にニューヨークのセントラルパークをはじめ、 数々の屋外空間を設計したオルムステッドを、 70年代のポストモダンの視点から再検討したスミッソンの思考。

新しい「エコロジー」や人新世が人口に膾炙する現代の芸術と環境をめぐる議論においても、 多くの示唆を与えてくれる。

【目次】

SPECIAL FEATURE

Gerhard Richter ゲルハルト・リヒター 《ビルケナウ》という到達点

PART1

ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ》(2014)

[論考]イメージと倫理の位相 ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ》とアウシュヴィッツ

西野路代=文

PART2

Artist’s Books of Gerhard Richter

リヒターにとっての「アーティストブック」とは何か?

河内秀子=文

PART3

《ビルケナウ》以降のリヒターの 抽象絵画とドローイング

[論考]ふたたび始めること ──ゲルハルト・リヒターの新作抽象絵画

ディーター・シュヴァルツ=文 中野勉=翻訳

SPECIAL FEATURE

[論考]ロバート・スミッソン

「フレデリック・ロー・オルムステッドと弁証法的風景」

平倉圭+近藤亮介=翻訳 近藤亮介=解題

========

ARTIST IN FOCUS

小寺創太

大岩雄典=聞き手・文

富田直樹

岩垂なつき=聞き手・文

ARTIST INTERVIEW

ムン・キョンウォン& チョン・ジュンホ Moon Kyungwon & Jeon Joonho

馬定延=聞き手

PAPERS

無為を表象する ──セーヌ川からジョルジュ・スーラへ流れる絵画の(非)政治学

中島水緒=文

美術手帖2022年7月号 6月7日(月)発売

定価|1800円+税

発行|カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社

発売|美術出版社

『美術手帖』公式サイト

https://bijutsu.press/books/5011/

Amazonサイト

https://www.amazon.co.jp/dp/B0B1KWFR48

* 美術出版社

1905年の創業以来、 一貫して良質な美術図書の出版を手掛けてきました。

『美術手帖』『ワイナート』などの定期雑誌、 『カラー版美術史シリーズ』をはじめとする美術・デザイン・建築などの芸術全般にわたる書籍の出版、

美術展のカタログ制作、 「美術検定」事業のほか、 アートと人々をつなぐ多彩な事業を行っています。

アートを社会に実装させる

https://bijutsu.press/