イノベーションハブを繋ぐスイーツブランド「THICK」
「STEAM」をテーマに、 ビジネス・アカデミア・アートといった多領域をつなぐコミュニティを育み、 新たなビジネスを生み出すイノベーションハブ「VEIL
SHIBUYA(以下VEIL)」。 この創造性のるつぼともいうべきVEILでは、 実際にどのような企業や人々が活動し、 どんな化学反応が生まれているのだろうか。
VEILに入居中の各プロジェクトへの取材から、 イノベーションの現場の空気をお届けする。
今回はVEILの1Fでテストマーケティングを行う、 ラスクとカカオの専門店「THICK」を取材。 VEILにおけるプロジェクトの位置付けから商品のこだわり、
今後の展望まで幅広くお話を伺った。
新しい体験を生み出し、 人をつなぐ
2022年3月にオープンした「THICK」は、 Anyがインキュベートしたカカワトル株式会社によって展開されているスイーツブランド。
これまでのラスクのイメージを覆す「あつやきラスク」と、 独自のサプライチェーンにもとづく高品質なプレミアムカカオを主軸とした商品展開が特徴的だ。
ではなぜ、 分野融合型インキュベーション拠点VEILにおいて「ラスク」なのか。 チーフ・クリエイティブ・オフィサーの田中雅人はこう語る。
「単なるプロダクトではなく、 新しい体験をつくりだすことは現代において重要です。 そう考えたときに、 ラスクというアイデアを思いつきました。
ラスクは様々な食材とのコラボレーションのベースとなり、 スイーツはもちろん食事全般への幅広い展開が考えられます。 またラスクを厚焼きにすることで、
見た目の新鮮さはもちろん、 中と外の食感の違いを演出することができると思ったんです。 スイーツは個人の癒しであると同時に、
ギフトとして他人とのコミュニケーションをとりなすものでもあります。 加えて、 食とは五感を駆使した総合的な体験のはずですよね。 体験全体をデザインする上で、
多様な領域の方から意見をもらえるVEILの環境は魅力的ですし、 ひるがえってみると、
VEILに集まるビジネスクリエイターの方々を結びつける一つのツールとしてわたしたちのラスクが活かされることも考えられるんじゃないかな、 と思っています」
VEILならではの多様な視点が商品をブラッシュアップし、 同時にそれがコミュニティをつなぐメディアとしても機能している。
相互に支え合う生態系がそこにはつくられつつあるように見えた。
「カカオはトリニダード・トバゴ産のカカオ豆を農園から直接仕入れているトリニタリオ社(東京都中央区)のものを使用しており、
サプライチェーンへのこだわりはもちろんですが、 ラスクと合わせるにあたって細かな配合の調整がされています。 近年ビーントゥバーが注目されつつありますが、
チョコレート単体ではなく他の食材とのマリアージュをしっかりつきつめて、 しかもそれを手軽なストリートフードとして提供するという試みは面白いと思っています。
こうした開発の過程でも、 THICKのメンバーのみんなやVEILの方々と意見交換をしています」
ボトムアップの商品開発とマーケットシミュレーターとしてのVEIL
「実際に、 VEILに入居されている方々に食べてもらうことが会話のきっかけになり、 フィードバックをいただいたりしています。 面白いのは、
みなさん全然感想が違うんですよね。 だからVEILの中で対話をしながらつくるプロセス自体が、 ある種の市場シミュレーションのようでもあるんです。
STEAM人材の方とマーケティングやパッケージデザインについてディスカッションを行いながら、 アカデミアとビジネスの新しい協働の姿を模索しています。
それにVEILには日本以外のバックグラウンドを持つ方々もたくさんいらっしゃいますから、 今後の海外展開に向けたインサイトもあって嬉しいですね」
食という主観的な体験をデザインする上で、 多様性に富んだVEILの環境は大きなポテンシャルを秘めているようだ。 こうした独特の商品開発の過程について、
PIERRE HERMÉやThe Ritz-Carltonを経て本プロジェクトに参画したパティシエの仁田脇秀光はこう振り返った。
「やはりいままでにない食感の商品ですから、 試行錯誤が大変でしたね。 そうした中で、 VEILの方々からいろいろな意見をいただけたのは、
検討する可能性の幅を広げる上で重要でした。 通常のパティスリーでは、 オーナーが味の決定権を握るかたちでトップダウンに意思決定がなされます。
それに対して今回は対話の中からボトムアップにつくられていった部分も大きく、 新鮮な体験でした」
VEILを街へとひらいていく玄関口としての食
こうした独自のプロセスで開発を進めるTHICKは、 今後どのような展開を考えているのだろうか。 田中は商品開発と人材育成の観点からこう語ってくれた。
「フードテックには積極的に挑戦していきたいですね。 STEAMをテーマとするVEILだからこそできるコラボレーションを反映させられたらなと。 まずは、
パンを科学することをテーマにVEILのインキュベーションプログラムを利活用できればと検討をしています。
THICKとしてもインパクトを生むことを大事にしていますので、 VEILがそれを手助けしてくれる存在になるといいですね。 また、
この場所はいろいろな人とメディアが入り乱れる場所なので、 そのリッチな環境で情報を吸収できる新しい世代の人たちにどんどん参加して欲しいと思っています」
一方でチーフ・エグゼクティブ・オフィサーの野田臣吾は、 食にとどまらないTHICKの可能性についてこう語る。
「VEILに入居しているプロジェクトの多くがBtoBですので、 中ではすごく面白いことが起きているのに外からはわかりづらい、 という難点があるかと思います。
そんな中で、 THICKのようなBtoC事業をつうじてコラボレーションの形を消費者の方々に伝えていくことは、
これからのVEIL及びTHICKの発展を考える上で重要でしょう。 今後は入居プロジェクトとの具体的なコラボレーションを提案していくことで、
ビジネスクリエイターの方々の発想を広げ、 より柔軟にアイディアを生み出すことを刺激できるようなコミュニティの場になれればと考えています」
食を端緒にVEILのイノベーションの空気を街へとひらいていく。 その先に広がる未来はどのようなものだろうか。
最後にVEILのインキュベーターである高橋真人がそのヴィジョンを語ってくれた。
「個人の力が世界を動かす時代において、 消費者ひとりひとりが何を望んでいるのかを知ることは、 あらゆる業界における事業の基礎ですから、
THICKが培った知見が全く別の分野で活かされることもあるかもしれません。 これと同じように私たち一人ひとりが、
視野・視座・視界を広げて様々な分野の知恵と交わっていく先に、 予想を超えたワクワクする街がつくられるのだと思います。 その第一歩として、
THICKがVEILや渋谷の人々をつなぐ存在になってくれたら嬉しいですね」
VEIL発のフードプロジェクト、 THICK。 そこにはイノベーションのエッジと人々をゆるやかに繋ぐ、 コミュニケーションとしての食が存在した。
思いがけない出会いに満ちた街を彩る、 新しい食体験の一端がここに詰まっているのかもしれない。
Interviewee: Hidemitsu Nitawaki, Erina Mori, Masato Takahashi, Masato Tanaka,
Shingo Noda
Photographer: Ryo Yoshiya
Interviewer / Text: Shin Aoyama
▼VEIL SHIBUYAについて
運営・インキュベーション:Any合同会社
コミュニティ運営:一般社団法人STEAM Association
PJ統括・施設協力:東京建物株式会社
所在地:東京都渋谷区渋谷2-16-8 VEIL SHIBUYA
URL:
施設運用内容:アカデミア・ビジネス・アートといった専門領域で活躍する人々のもつ叡智を社会に還元するプラットフォームの創出を目指し、
次世代社会のスタンダードとなる価値や視点をつくり出すためのコミュニティ型イノベーションハブ
▼店舗概要
THICK SHIBUYA RUSK
所在地:東京都渋谷区渋谷2-16-8 VEIL SHIBUYA
渋谷駅ヒカリエ口より徒歩3分
URL:
Instagram:https://www.instagram.com/thick_shibuya_rusk/
店舗地図
▼会社概要
会社名:カカワトル株式会社
所在地:東京都世田谷区玉川田園調布2-13-1 アビターレ玉川田園調布102
設立:2021年10月
URL:
問い合わせ:[email protected]
事業内容:「THICK SHIBUYA RUSK」の運営
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