ミステリファンも唸る前代未聞の文学評論『謎ときサリンジャー』が第21回(2022年度)小林秀雄賞受賞!

20世紀文学を代表する作家サリンジャー。その作品世界に誰も発したことのない問いを発し、誰も到達したことのない結論へと導いた「文学探偵」の鮮烈な評論が小林秀雄賞を受賞しました。

ミステリを読むような興奮と、 テキストを追う快楽に満ちた前代未聞の文学評論――そんな本書がこのたび、 第21回(2022年度)小林秀雄賞を受賞しました。

受賞理由は「サリンジャーの短篇「バナナフィッシュにうってつけの日」からここまで論を豊かに展開した。

単なる「研究」から飛び出し、 「謎解き」以上の次元に到達している。 ストイックなまでに、 テキストに純粋に向き合った姿勢を評価する」というもの。

サリンジャーを読んだことがある人もない人も、 評論やミステリに馴染みのない方でも、 きっと一読すれば驚き、 知的刺激を受けることになる一冊です。

サリンジャーの名篇「バナナフィッシュにうってつけの日」のあまりに有名な結末は唐突な主人公の「拳銃自殺」。

過去のあまたの作品解釈はもちろんそこがスタート地点です。 ところが本書の著者は問うのです。 果たしてそれは「自殺」だったのか?と。

つまりこれは……「事件」だったのではないかというのです。 前代未聞の問いは問いを呼び、 めくるめくテキスト分析はやがてサリンジャーの作品世界全体に及びます――。

世界的な評価を受けている「文学探偵」が弟子と共に天才作家の謎に挑んだ『謎ときサリンジャー――「自殺」したのは誰なのか』とは、 いったいどんな作品なのでしょう。

「おもしろすぎて痺れる」「ミステリの面白さそのもの」「自分が今まで読んできたサリンジャーは何だったのだろう?」刊行以来、

20世紀を代表する作家を論じるれっきとした文学評論でありながら、 ミステリ通をも唸らせてきた本書。

同書は全世界で6500万部ともいわれる驚異的なベストセラー『ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)』を生んだ作家J・D・サリンジャーの初期作品から「最後」の作品までを精緻に解読、

これまで誰も疑問を呈してこなかった謎を提起し、 その謎を手がかりに鮮やかにサリンジャーの作品世界全体を読み解いてみせます。

その鍵となる疑問こそが、 サリンジャーの初期短篇集『ナイン・ストーリーズ』冒頭に収録された名短篇「バナナフィッシュにうってつけの日」のラストにまつわるもの。

主人公シーモア・グラスはフロリダのビーチで少女に戯れるように「海中のバナナ穴でバナナを食べてバナナ熱で死んでしまう」奇怪な魚バナナフィッシュの話を語るような若い男なのですが、

作品のラストはこう締めくくられます。

* ツインベッドの一つに横たわって寝ている女を彼はちらりと見た。 それから旅行鞄のところまで行き、 そしてそれを開け、 重なっている下着や肌着の下から、

七・六五口径のオルトギース自動拳銃を取り出した。 弾倉を外し、 それを見て、 そして挿し直した。 彼は銃のスライドを引いた。

それから空いているツインベッドのところまで行って腰を下ろし、 あの娘を見て、 ピストルの狙いを定め、 自分の右のこめかみを銃弾で撃ち抜いた。

どこから見ても自殺です。 ところが著者は本書の冒頭でこう問うのです。 * しかし、 それは本当に自殺だったのだろうか――。

これまで幾多の読者が、 文学研究者が、 同じ作品を読みながらも発したことのない前代未聞の問い。 これをきっかけに、

著者のテキスト分析はサリンジャーの短篇集『ナイン・ストーリーズ』、 〈グラス家のサーガ〉と呼ばれる『フラニーとゾーイ』、 『大工よ、

屋根の梁を高く上げよ/シーモア序章』、 サリンジャーの事実上、 最後の作品ともいえる「ハプワース16、 1924年」、

ついには『ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)』の主人公、 ホールデン・コールフィールドにまで及びます。

大胆でありながらどこまでも緻密な著者の作品解読の過程は、 多くの人の知的興奮を呼びました。 作家の恩田陸さんは「これはすごい。

画期的という単語が陳腐に思えるほど、 画期的」、 京都大学名誉教授の若島正さんは「興奮した。 グラス家の物語に目を凝らせ(シー・モア・グラス)!耳を澄ませ!」、

東京大学教授の阿部公彦さんは「余人の追随を許さない探求ぶりにぞっとするような快感を覚えた」とそれぞれコメントを寄せてくださいました。

ミステリ通の編集者として知られる『書きたい人のためのミステリ入門』著者の新井久幸さんも「丁寧に伏線を拾って論理的に組み上げると、

唯一無二の解にたどり着く」「今年読んだ本で真っ先に思い浮かんだのは、 『僕が答える君の謎解き』(紙城境介・著)と『謎ときサリンジャー』」と絶賛。

2021年8月の刊行直後から新聞・雑誌・SNSで取り上げられ、 文学研究者からミステリ通までを唸らせた傑作です。

<内容紹介>

「バナナフィッシュにうってつけの日」のラストは主人公の自殺ではなかった!? 前代未聞の問いは天才作家の作品世界全体に及び、 やがては『ライ麦畑』までが……。

世界最高峰のミステリ賞〈エドガー賞〉の評論・評伝部門で日本人初の最終候補となった「文学探偵」が弟子と読み解く新たなサリンジャーの世界。

<著者紹介>

竹内康浩(たけうち・やすひろ):1965年、 愛知県生まれ。 アメリカ文学者。 東京大学文学部卒。 北海道大学大学院文学研究院教授。 Mark X:Who

Killed Huck Finn’s

Father?(マークX――誰がハック・フィンの父を殺したか?)がアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の評論・評伝部門で日本人初の最終候補となる。

サリンジャーの他、 スコット・フィッツジェラルド、 フラナリー・オコナー、 マーク・トウェイン、

エドガー・アラン・ポー等に関する論文を主にアメリカで発表している。

朴舜起(ぼく・しゅんき):1992年、 兵庫県西宮市生まれ、 鳥取県境港市出身。 立教大学文学部英米文学専修を卒業後、 サリンジャー研究を志し、

北海道大学大学院に進学。 2021年8月現在、 同文学院欧米文学研究室博士課程3年。

ハーマン・メルヴィルやワシントン・アーヴィングなど19世紀アメリカ文学からイアン・マキューアンをはじめとする現代イギリス文学まで幅広く研究中。

<書籍データ>

【タイトル:『謎ときサリンジャー――「自殺」したのは誰なのか』】

【著者名:竹内康浩、 朴舜起】

【発売日:2021/08/26】

【書誌情報:新潮選書】

【造本:四六判変型】

【本体定価】1,650円(税込)

【ISBN:978-4-10-603870-9】