前立腺癌を高精度に検出する病理AIの開発に成功~ Cancersに論文が掲載(Cancers /特集号: Artificial Intelligence in Oncology) ~
Cancersに論文が掲載(Cancers /特集号: Artificial Intelligence in Oncology) ~
デジタル病理支援ソリューション「PidPort」を提供するメドメイン株式会社 ( 本社:福岡県福岡市、 代表取締役CEO: 飯塚 統、 以下「メドメイン」)は、
Deep Learning(深層学習)の転移学習を用いることで、 前立腺の経尿道的前立腺切除術検体の病理組織デジタル標本において、
前立腺癌を高精度に検出する人工知能の開発に成功しました。
また、 この開発に関する論文をMDPI(
)が発行するCancersに投稿し、 2022年9月28日にArtificial Intelligence in
Oncologyの特集号にて掲載されたことをお知らせします。 (掲載箇所:
https://www.mdpi.com/2072-6694/14/19/4744)
■本研究成果の概要
経尿道的前立腺切除術(Transurethral resection of prostate:TUR-P)検体の病理組織デジタル標本において、
前立腺癌を高精度に検出する人工知能の開発に成功しました。
■本研究の背景
本研究は、 多様な臓器における多彩な病理組織標本における癌組織形態を高精度に検出することを目的に、 2021年より継続的に発表している(文献:Cancers,
13: 5368, 2021;Diagnostics, 11: 2074, 2021;Diagnostics, 12: 768,
2022)一連の転移学習を用いた人工知能開発の成果です。 2021年7月に国際発表したPartial fine-tuning法(文献:Proceedings
of Machine Learning Research, 143: 338-353, 2021)に関する研究論文を応用し、 開発しました。
前立腺癌に関しては、 2022年に針生検病理組織デジタル標本における腺癌の検出を可能にする人工知能の開発に成功しましたが(文献:Diagnostics, 12:
768, 2022)、 経尿道的前立腺切除術検体では精度が劣る結果となっていました(ROC-AUC:0.74 ~ 0.91)。
原因としては、 経尿道的前立腺切除術検体に高頻度で含まれる前立腺肥大組織や、 熱焼却に伴うアーチファクトおよび炎症を、
前立腺癌として誤って検出する場面が多かったことにあります(文献:Diagnostics, 12: 768, 2022)。 そこで、
経尿道的前立腺切除術検体については、 人工知能モデルを別途開発する必要があり、 本研究に至りました。
経尿道的前立腺切除術は、 前立腺肥大症に対する一般的な治療方法として広く普及しています。 尿道から内視鏡を挿入し、
肥大した前立腺組織を削り取っていく治療方法で、 手術後の回復が早いという特長があります。
経尿道的前立腺切除術の施行時に、 偶発的に前立腺癌が5–17%程度、 発見されることが報告されています(文献例:Arch Esp Urol, 63:
855–861, 2010)。 癌が発見されると、 通常の前立腺癌に準じた治療が行われることが一般的です。 また、
組織片の5%以上に癌が含まれている場合や(文献例:Semin Surg Oncol, 11: 36-45, 1995)、 悪性度の高い(high
grade)癌が含まれている場合は(文献例:J Urol, 175: 1337-1340, 2006)、 治療選択に関わってくるため、
病理学的評価を十分にしておく必要があります。
経尿道的前立腺切除術では、 高周波電流にて前立腺を削り取るように組織を切除してくるため、 病理組織検体は大量の小さな組織片で構成されます。
プレパラート上に多数の断片的な組織片が配置され、 胃や大腸などの生検に比して組織量が非常に多く、 また標本枚数も多くなるのが特徴です。 病理診断に際して、
熱焼却に伴うアーチファクトの強い検体が散見されるため、 顕微鏡下の観察・診断業務における負荷が大きくなります。 したがって、
病理医の診断補助を可能にする人工知能の開発が望まれます。
本研究の目的は、 経尿道的前立腺切除術検体の病理組織標本において、 前立腺癌の検出を可能にする人工知能を、 深層学習を用いて開発することにあります。
■本研究の内容
本研究では、 国内の複数の医療機関から、 経尿道的前立腺切除術および針生検の前立腺病理組織標本の提供を受け、
弊社既存開発モデルである大腸低分化腺癌を検出する深層学習型人工知能モデル(文献:Diagnostics, 11: 2074,
2021)を基盤モデルとしたPartial fine-tuning法(文献:Proceedings of Machine Learning Research,
143: 338-353, 2021)による転移学習ならびに、 弱教師あり学習(weakly supervised learning)を行うことで、
病理医による精密且つ大量のアノテーションデータを用いることなく、 前立腺癌を検出する深層学習型人工知能を開発しました。 また、 開発した人工知能は、
教師データとは異なる検証症例ならびに公的データベース(TCGA)からの症例を用いて、 精度の検証を行いました。
■本研究の成果
開発したモデルを検証したところ、 経尿道的前立腺切除術検体の検証症例において、 ROC-AUCが0.98前後という極めて高い精度が得られました。 また、
ヒートマップにより表示された人工知能が検出した前立腺癌を示唆する領域は、 病理医による検証の結果、 病理組織学的に妥当であることが確認されました。
本研究で開発した人工知能の特長のひとつとして、 強い変性を受けた組織片にも、 安定した腺癌検出精度が得られたことにあります。 実際の病理診断において、
変性の強い組織は、 細胞形態の詳細な観察が困難なため、 多くの場合、 変性所見を差し引いて細胞異型および構造異型を推定し、 周囲間質の反応などを加味し、
病理医が良悪性を総合的に判断します。 本研究で開発した人工知能では、 変性した上皮過形成や間質の偽陽性を減少させることに成功しています。
本研究成果のポイントは、 前立腺癌の針生検病理組織標本に対する人工知能モデルでは十分な精度が得られなかった経尿道的前立腺切除術検体の病理組織標本において、
転移学習・弱教師あり学習を用いることで、 弱ラベルを付加した少数の教師データによって、 極めて高精度な深層学習型人工知能の開発に成功したことです。 また、
病理医によるアノテーションデータを用いずとも、 熱焼灼など変性した病理組織においても、 腺癌領域を安定して検出できたことは、
弱教師あり学習がある程度広範な学習適応を有していることを強く示唆しています。
今回開発した人工知能モデルの検証を、 さらに複数施設ならびに大規模症例にて行い、 検証を進めるとともに、
臨床的対応を推論するような前立腺癌における飛躍的な人工知能の開発に繋げてまいります。
■原著論文
▼論文タイトル: Transfer Learning for Adenocarcinoma Classifications in the
Transurethral Resection of Prostate Whole-Slide Images
▼日本語訳: 経尿道的前立腺切除術検体の病理組織デジタル標本における「前立腺癌」の検出を可能にする深層学習を用いた人工知能の開発
▼DOI:https://www.mdpi.com/2072-6694/14/19/4744
https://www.mdpi.com/2072-6694/14/19/4744
■著者・所属
<栃木県立がんセンター 病理診断科>
阿部 信
<メドメイン株式会社>
常木 雅之、 Fahdi Kanavati
※この成果は、 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の結果得られたものです。
■会社概要
【会社名】メドメイン株式会社 (Medmain Inc.)
※経済産業省 J-START UP 選出企業
https://www.j-startup.go.jp/startups
【設立日】2018年1月11日
【事業内容】医療ソフトウェア・クラウドサービスの企画・開発・運営および販売
【代表取締役/CEO】飯塚 統
【所在地】[東京オフィス] 東京都港区南青山2-10-11 A青山ビル2F / [福岡オフィス] 福岡県福岡市中央区赤坂2-4−5 シャトレサクシーズ104
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■お問い合わせ先
メドメイン株式会社 広報担当: [email protected]
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