東洋大・高野龍昭准教授監修:ケアマネジメント・プロセス実態調査。高齢社会ラボがケアマネジャー132名を対象に調査を実施。アセスメントからモニタリング・評価までの各プロセスでの課題を確認
~産学連携を強化し、アカデミックな研究活動を継続~ 株式会社エス・エム・エス(本社:東京都港区、 代表取締役社長:後藤夏樹、 東証プライム、
以下「当社」)が提供する介護経営実態や法改正動向、 介護従事者のキャリアや働き方、 高齢者の実態など、
高齢社会にまつわる調査・情報発信を行う研究機関「高齢社会ラボ」(URL:
https://aging-and-well-being-labo.com/)は、 より質の高い研究を目指し産学連携を強化しています。
この度、 介護事業者が提供するサービスの品質向上を目的に、 ケアマネジャーの行うケアマネジメント・プロセスの実態について研究するため、
東洋大学の高野龍昭准教授監修のもと、 介護の質の評価に関する調査を行いましたので結果をお知らせします。
■社会背景
超高齢社会の進行に伴い、高齢者に対する介護サービスの需要は増加し続けています。
2022年8月末時点で696.9万人の要介護(要支援)認定者数は、2025年には745万人、2040年には872万人に達する見通しです(※1)。
また、介護需要の増加に伴い、介護従事者の必要数は国の試算によると、2025年には約243万人、2040年には約280万人まで拡大する見込みとなっています(※2)。
一方で、生産年齢人口は減少が続き、介護従事者の不足も深刻化しており、量・質両方の観点から今後ますます介護サービスの提供が困難となっていくと考えられます。
厚生労働省でも在宅サービスの基盤整備や、介護支援専門員法定研修カリキュラムの見直し、適切なケアマネジメント手法の策定に向けた調査研究事業等を検討・推進しており(※3)、介護サービスの供給量を増やしていくとともに、質の維持・向上に向けた施策が進められています。
■調査の背景
当社は「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」をミッションに掲げ、40以上のサービスを開発・運営しています。そのため、当社の提供サービスである介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」やケアマネジャー向けコミュニティ「ケアマネドットコム」などのサービス利用者をはじめ、医療・介護・ヘルスケア・シニアライフ領域の各サービスの会員を対象とした調査が可能です。
この度、高齢社会ラボでは、ケアマネジメントの要であるケアマネジャーを対象に、介護の質の現状と、介護の質向上への取り組みについてアンケート調査およびインタビュー調査を行いました。介護の質の向上には、介護のPDCAサイクルであるケアマネジメント・プロセスが運用されているかが重要であると考えられます。今回の調査では、ケアマネジメント・プロセスを運用するにあたってケアマネジャーが気をつけていることや悩み、困りごとに着目しています。
■ケアマネジメント・プロセスについて
ケアマネジメントは、介護を必要とする人が地域や自宅で自立した生活を送れるよう支援することを目的に、介護サービスと利用者をつなぐための仕組みです。ケアマネジメントはインテーク(受理)からターミネーション(終結)までのプロセスがあります。このうち特に、アセスメント(査定)、プランニング(計画)、インターベンション(介入)、モニタリング(追跡)、エバリューション(評価)というプロセスは、介護を必要とする人のニーズを把握したうえで必要なサービスを提供し、その結果に基づいてサービスを見直していくことで、介護の質を向上させるPDCAサイクルとなっています。そのため、ケアマネジメント・プロセスの各工程が適切に運用されることは介護の質の向上に直結すると考えられます。
高齢社会ラボでは「どのようにすればケアマネジメント・プロセスが適切に運用されている状態をつくることができるのか?」をテーマに研究を行っています。
【アンケート調査の主な結果】
1.ケアプラン作成時に生活全般の解決すべき課題に対して、長期目標・短期目標・サービス内容を適切に設定できているケアマネジャーは62.9%
「特定のサービス事業者に集中せずにサービス事業所を選定する(81.1%)」、「利用者の生活課題に合わせて適切なサービス事業所を選定する(78.8%)」はほぼ毎回実現できているとの回答。サービス選定より、適切な目標設定の方が難易度が高いことがわかった。
2.サービス担当者会議でのケアプランの内容に関して、適切な議論をおこなえているケアマネジャーは65.2%
「ほぼ必ずおこなわれている」が65.2%、「たまにおこなわれている」が31.7%だった。必ずしも適切な議論ができているとは言えない結果に。
3.モニタリングシートを毎回作成しているかについては「ほぼ必ずおこなわれている」が85.6%
モニタリングシートは高い確率で作成されていることがわかった。
1.ケアプラン作成時の考慮事項
ケアプラン作成時の考慮事項について、ほぼ毎回実現できている割合の高いものは、「特定のサービス事業者に集中せずにサービス事業所を選定する(81.1%)」、「利用者の生活課題に合わせて適切なサービス事業所を選定する(78.8%)」、「利用者と家族の意向を適切に反映する(72.7%)」となった。対して、「生活全般の解決すべき課題に対して、長期目標・短期目標・サービス内容を適切に設定する」は62.9%と、比較的低い結果となった。
2.サービス担当者会議でのケアプラン内容に関する議論
「サービス担当者会議では、ケアプランの内容に関して適切な議論がおこなわれていますか」という問いに対し、「ほぼ必ずおこなわれている」が65.2%、「たまにおこなわれている」が31.7%だった。
3.モニタリングシートの作成について
「モニタリングに際して、モニタリングシートを毎回作成していますか」という問いに対し、「ほぼ必ずおこなわれている」が85.6%だった。
高齢社会ラボ:介護の質の評価に関する調査(ケアプラン~モニタリング編)の詳細はこちら
URL:
https://aging-and-well-being-labo.com/surveys_20220820_kaigonoshitsunohyoka_careplan2monitoring/
【アンケート調査概要】
・調査対象:全国のケアマネジャー
・調査方法:カイポケリサーチ(※4)よるインターネット調査
・調査期間:2022年5月15日(日)~6月15日(水)
・有効回答数:132件
【インタビュー調査によるケアマネジャーの声】
1.目標設定について
・長期目標はニーズの裏返しなので目標を設定しやすいのですが、そこに至るまでの短期目標の設定が悩ましいです。
・介護保険では、サービス提供によって達成すべき目標を半年後・1年後と設定し、その達成を通じて利用者が自宅でスムーズに過ごせるようにしていくことが求められています。目標が変わらない人の目標設定には本当に困っています。サービスの変更がないので、同じサービスのままで目標にどのように変化をつけていくかは非常に悩みます。
2.情報収集や分析、ケアプランの検討について
・リスクの分析は難しいです。例えば車椅子について、生活の一部のみで利用するのであればいいけれども、利用が常態化してかえって要介護度が重くなってしまうことがあります。利用者の希望に従って用意することは誰でもできます。裏に隠れているリスクや影響などをしっかり分析しておかないと、過大な介護や、逆に過小な介護になってしまいます。利用者も家族も「ケアマネジャーだったら言われたとおりのサービスを用意することは当然だ」と思っていることもあるので、専門職として重要なことを柔らかく申し伝える練習はいつもしています。
・分析力は自分自身の課題だなと感じております。例えば歩行困難という事象があったとして、「その原因が何か」「どうしたら改善できるか」先にある程度見通して仮説を立てたうえで、利用者の方に「日頃どういう生活を送っているのか」「どういう食事をとっているのか」といったことを訊けたら、もっと良くなるのではないかと反省しています。
・利用者に例えば「デイサービスどうだった?」「ヘルパーさんどうだった?」と画一的に訊くのではなく、話の中で拾っていくような技術が必要で、これが難しいです。もちろん、利用者もケアマネジャーが業務で来ていることは分かっているのですが、一問一答のような会話はあまり好まれません。普通の会話の中からモニタリングをしていく技術は、非常に大事で難しいと思います。
・アセスメントにも通じるのですが、掘り下げる質問力は磨いていかないといけないと感じています。モニタリングでは利用者の状況やサービスの満足度などを確認しなければならないのですが、それをストレートに訊いても不十分な答えしかもらえないと感じています。
・例えば利用者から「デイサービスを利用したい」「ショートステイを利用したい」といった相談があったとき、地域にある事業所・施設の特徴をもう少しうまく伝えられるようになりたいです。各事業所・施設の特徴はやはりその現場を知らないと答えられないので、その勉強は必要だと感じています。
高齢社会ラボ:介護の質の評価に関するインタビュー調査の詳細はこちら
URL:
https://aging-and-well-being-labo.com/surveys_20221130_kaigonoshitsunohyoka_interview/
【インタビュー調査概要】
・調査対象:ケアマネジャー
・調査方法:オンラインでのインタビュー
・調査時期:2022年7月
・実施数:3名
■今後の活動について
今回の調査に関連した、高野准教授によるコラムを当社運営の介護事業の経営者・管理者向け情報サイト「介護経営ドットコム」で公開していきます。また、今後もケアマネジメント・プロセスの各工程について、質の高い介護のためにケアマネジャーがどのような仕事を行っているかをより高い精度で調査する予定です。高齢社会ラボは積極的に産学連携を行い、高齢社会にまつわる研究を進めていきます。有識者、専門家の考察などは介護経営ドットコムをはじめとした当社内のメディアで報告します。
介護経営ドットコム:ケアマネジャーの「孤立」~『介護の質の評価に関する調査』から(1)はこちら
URL:
https://kaigokeiei.com/news/ys9mirffu3
※1:厚生労働省「令和4年8月分 介護保険事業状況報告(暫定)」(
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/m22/2208.html
)および「第8期計画期間における介護保険の第1号保険料について」(
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18164.html)より
※2:厚生労働省「令和3年7月9日 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(
)より
※3:厚生労働省「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(参考資料)」(
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29048.html)より
※4:カイポケ(当社サービス)の会員に向けた調査。全国42,850事業所(2022年10月1日時点)の介護事業者を対象に、事業形態ごとに分けた調査などが可能。
■調査監修者・高野龍昭氏のコメント
株式会社エス・エム・エスの運営する高齢社会ラボによって、「介護の質の評価に関する調査」の結果が公表されました。
この調査は同社の研究員である安齋耀太氏によってとりまとめられ、私も監修者として関わったものです。
この調査は、昨今の介護支援専門員(ケアマネジャー)の課題として各方面から指摘されている「どのようにすればケアマネジメント・プロセスが適切に運用されている状況を作ることができるのか?」という課題にアプローチすることをコンセプトと定め、量的調査と質的調査を絡め、ケアマネジャーのケアマネジメント・プロセス遂行上の「悩み」「困りごと」をあぶり出そうとしたものです。
調査結果からは、ケアマネジャーが孤立的に業務を行わざるを得なくなっていることや、医療・介護連携に苦労していること、サービス担当者(介護サービス事業所)との調整に悩んでいることなどが示されており、ケアマネジメントにおける一般的な課題が描出されました。
この結果に関する考察を行うことで、ケアマネジャーがみずからの業務を振り返ったり、サービスの質を高めるヒントが見えてきたりするはずです。
リアルなケアマネジメントの実務上の課題を示すひとつの調査結果として、注目に値します。
東洋大学 ライフデザイン学部 准教授 高野龍昭氏
社会福祉士、介護支援専門員。1986年から社会福祉・医療の現場実践に従事。医療ソーシャルワーカーや相談指導員、居宅介護支援事業所での介護支援専門員の実務経験を経て、2005年に東洋大学専任講師に就任。2011年より現職。福祉専門職養成や介護保険制度・ケアマネジメント等の研究に従事。
■調査代表者・安齋耀太のコメント
高齢社会ラボは、介護経営実態や法改正動向、介護従事者のキャリアや働き方、高齢者の実態など、高齢社会にまつわる調査・情報発信を行う研究機関です。
現在、高齢社会ラボではケアマネジメント・プロセスに注目して調査研究を行っており、東洋大学・高野龍昭准教授にご監修いただいたこの調査もその一環として行われました。
高齢社会ラボがケアマネジメント・プロセスに焦点を当てた調査を進めている背景には、介護保険の制度的な前提と近年の政策上の動向があります。
介護保険制度は、介護サービスの質をいかに担保するかに関心を寄せながら構想・設計され、ケアマネジメントというプロセスやケアマネジャーという職種はそのための重要な仕組みです。
さらに、近年の政策的議論において重要視されている生産性の向上というトピックも、生産年齢人口が減少するなかでいかに介護の質を担保しながら介護サービスを維持できるかという問いが根底にあります。
本調査ではケアマネジメント・プロセスの課題を部分的に明らかにすることができましたが、この課題をいかに解決することができるかという点については十分な解答を出せていません。引き続き産学連携を強化しながら調査研究を進めて質の高い情報の発信を続け、将来的には介護・高齢社会の未来の指針や選択肢を示せるようにしていきます。
株式会社エス・エム・エス 高齢社会ラボ 研究員 安齋耀太
東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität
Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校
非常勤講師を歴任。2021年エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。
【「高齢社会ラボ」について】
高齢社会ラボは、高齢社会にまつわる調査・研究・情報発信を行う研究機関です。介護事業者経営実態や法改正など高齢社会にまつわる各種調査の実施や情報の発信、および介護事業者、従事者、高齢者をテーマにした研究結果や論文概要の発表を行います。
URL:https://aging-and-well-being-labo.com/
https://aging-and-well-being-labo.com/
1.主な活動
介護事業者経営実態や法改正、介護従事者のキャリアや働き方など、高齢社会にまつわる各種調査の実施や情報の発信、および介護事業者、従事者、高齢者をテーマにした研究結果や論文概要の発表。
2.高齢社会ラボ所長プロフィール
株式会社エス・エム・エス 介護経営支援事業本部
松野雄太2003年大手在宅系介護事業会社入社。日本各地の介護事業所開設や運営支援、ICTやロボットを活用した介護現場の生産性向上などに幅広く関わる。事業部門責任者、執行役員を歴任後、取締役副社長就任。2019年エス・エム・エスに入社。介護事業者向け経営コンサルティングや商品企画に従事。厚生労働省調査研究などに関わり、介護事業者向けセミナー講師なども務める。
【株式会社エス・エム・エスについて】
2003年創業、2011年東証一部上場、2022年4月より東証の市場区分変更によりプライム市場へ移行。「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」ことをミッションに掲げ、「高齢社会×情報」を切り口にした40以上のサービスを開発・運営しています。
名称:株式会社エス・エム・エス
所在地:東京都港区芝公園2-11-1住友不動産芝公園タワー
代表者:代表取締役社長 後藤 夏樹
会社設立:2003年4月
資本金:23億1,022万円(2022年3月31日現在)
従業員数:連結3,303人、単体2,109人(2022年3月31日現在)
事業内容:高齢社会に求められる領域を、医療・介護・ヘルスケア・シニアライフと捉え、価値提供先であるエンドユーザ・従事者・事業者をつなぐプラットフォームとしての情報インフラを構築し、40以上のサービスを展開
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