量子コンピュータを用いた処方自動生成システムを開発 ハイブリッド型アルゴリズムによる計算の高速化と実用性の確立

ハイブリッド型アルゴリズムによる計算の高速化と実用性の確立 株式会社コーセー(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林

一俊)は、量子コンピュータと従来型のコンピュータを組み合わせたハイブリッド型アルゴリズムにより、高速に動作する化粧品の処方自動生成システムを開発しました。本システムの適用例として、角栓除去能の高さを目標品質としたクレンジングオイル処方を自動生成したところ、安全に使用できる条件を満たしながら、これまでの一般的な処方よりも高い角栓除去能をもつ処方が得られました。今後、他の剤型など適用範囲を広げていきます。なお、このアルゴリズムについては関連する2件の特許を出願済みです。図1 開発した化粧品自動処方生成のハイブリッド型アルゴリズムの概要

図1 開発した化粧品自動処方生成のハイブリッド型アルゴリズムの概要

* 研究の概要

量子コンピュータは次世代のコンピュータ技術として、幅広い産業において多くの期待がよせられています。当社ではこれまでもこの技術がもたらす化粧品産業における可能性を探索してきました(※1)。この量子コンピューティング技術のなかでも、「組合せ最適化問題」と呼ばれる課題によく用いられる量子アニーリング方式は、材料開発や創薬などの分野で商業利用が盛んに始められています。「組合せ最適化問題」とは、与えられた組合せの中から制約条件を満たしながら最も良い組合せを選び出す問題であり、無数の原料の組み合わせから安全性などの制約条件を満たしながら、目標品質をつくりあげる化粧品の処方設計に応用することができると考えました。

そこで、当社では量子コンピュータを用いて、目標品質に最適な化粧品処方を高速に自動生成させることができるアルゴリズムの開発を試みました。さらに、開発したアルゴリズムの適用例として、角栓除去能の高さを品質指標としたクレンジング処方の自動生成と評価を実施しました。

(※1)2020年12月17日発行ニュースリリース

https://corp.kose.co.jp/ja/media/2020/12/20201217.pdf * 量子コンピュータと従来型のコンピュータの強みを生かしたハイブリッド型アルゴリズムの開発

量子コンピューティング技術は発展途上であり、現時点では量子コンピュータ単体で計算される解には精度面で課題が残ります。

一方で、従来型のコンピュータでは莫大な候補の中から解を探すのに多くの時間を要してしまいます。

そこで、量子コンピュータと従来型のコンピュータのそれぞれの利点を組み合わせたハイブリッド型の独自アルゴリズムを開発しました(図1)。

このアルゴリズムは、量子コンピュータの強みである高速な演算能力を活かし、無数にある原料の組合せの探索領域を目標品質に合わせて高速で絞り込み、続いて、従来型のコンピュータを用いて絞り込んだ中で目標品質に最適な処方を正確に生成させることができます。

これにより、これまでは実用的な時間では計算が困難であった自動処方生成を、量子コンピューティング技術を活用することで実現できるようになりました。 * 適用例)角栓除去能に優れたクレンジングオイル処方の設計

開発した処方自動生成システムの適用例として、角栓除去能に優れたクレンジングオイル処方の自動生成を試みました。角栓は毛穴の詰まりや黒ずみ、ニキビなどの要因の一つであり、シート状のケア商品による物理的な除去やクレンジングオイルなどで溶解させて除去する方法が知られています。今回は角栓を溶解させる物性値を角栓除去能として目標品質に設定し、安全に使える原料配合量を条件として、クレンジングオイル処方の自動生成を実施しました。

その結果、自動生成した処方はこれまでの一般的な処方よりも高い角栓除去能を示しました(図2)。今回のクレンジングオイル処方の自動生成において、処理に要した時間はわずか数秒であり、量子コンピュータを用いないアルゴリズムと比較して、約900分の1に短縮できました。図2 自動処方生成システムにより生成したクレンジングオイル処方の効果検証

図2 自動処方生成システムにより生成したクレンジングオイル処方の効果検証

* 今後の展望

本研究により量子コンピューティング技術を応用することで、人間の思考を超えた化粧品処方を高速で自動生成する実用性と将来性を実証しました。当社では今後も継続して量子コンピューティング技術の可能性を探索するとともに、一人ひとりのお客さまが求める品質に合わせた処方開発サービスなど、市場価値提案を検討していきます。