大阪大学TATサイクロトロン棟で事業説明会を開催

2024年5月27日、大阪大学吹田キャンパス内に新設されたTATサイクロトロン棟にて、大阪大学、住友重機械工業株式会社(以下住友重機械)、アルファフュージョン株式会社(以下アルファフュージョン)による事業説明会が開催されました。この説明会では、アルファ線放出核種(以下α核種)アスタチン-211を用いたアルファ線核医学治療の最前線と、各社の革新的な取り組みが紹介されました。

TATサイクロトロン棟

TATサイクロトロン棟は、経済産業省の支援を受け、アルファ線核医学治療の社会実装を加速させるために、アスタチン-211のサイクロトロン加速器による大量生産を目指して建設されました(プレスリリース)。この施設では、住友重機械、東芝エネルギーシステムズ(株)、アルファフュージョンが協力し、アスタチン-211

の製造から抽出、精製、合成に至るまでの共同研究を行います。

TATサイクロトロン棟

アルファ線核医学治療におけるアスタチン-211の魅力と優位性

アルファ線核医学治療は、α核種とがん細胞に集積する化合物を化学的に結合させることで、体内で直接がん細胞にアルファ線を照射しがん細胞を物理的に破壊する新しい治療法です。アルファ線は破壊力が高い上に、体内での進行距離が短い(細胞数個分・10μm程度)ため、周囲の正常細胞への影響を最小限に抑えつつ、効率的にがん細胞を破壊できます。また、その飛程の短さゆえ周囲への被ばくの心配が無いため、放射線治療病室・特別措置病室が不要であり、外来治療が可能です。多くの医療機関で提供可能な治療法になることが見込まれています。

α核種として、主に欧米で盛んに研究開発がされているアクチニウム-225も知られていますが、アルファフュージョンが取り組むアスタチン-211は下記のような優れた特性を持っています。

・比較的短い半減期(7時間)なので、短期間で複数回の投与が可能であり、治療期間が短縮されます。その結果、患者負担の軽減や、治療不応の場合の迅速な切り替えができます

・低分子や中分子に共有結合で直接導入しやすく、幅広い種類のがん細胞集積化合物と結合可能です。この性質を用いると、例えば、がん細胞への集積性や安全性が高いことは確認されているものの、単体では有効性が乏しい抗がん剤候補化合物と結合させることで、効率的に医薬品候補化合物を生み出せます

・自然界に豊富に存在し容易に調達可能なビスマス-209を原料として、サイクロトロン加速器で製造可能であり、安定供給の目途が立っています一方、アクチニウム-225は原料が調達困難なラジウム-226であり、製造量の不足が指摘されています*1)

アスタチン-211のような短半減期核種医薬品を取り扱うためには緻密なサプライチェーンの構築が必要ですが、国内外で既にアスタチン-211より半減期の短い核種を用いた診断薬が流通しています。適切なサプライチェーンを構築することで、十分に流通可能です。

アスタチン-211創薬のリーダーとしての取り組み

世界でアルファ線核医学治療が注目を浴びる中、近年では多くの学会でアスタチン-211に関する演題が発表されるなど、アスタチン-211への期待も盛り上がっています。アルファフュージョンは、治験入りしたアスタチン-211のパイプラインを持つ世界で唯一の企業です(24年6月7日時点、アルファフュージョン調べ)。その先行した実績を活かし、世界でのアスタチン創薬実現に向けた日米欧の協力体制(World

Astatine Community; WAC)の組成をリードしてきました。

23年4月には、アルファ線核医学治療の代表的な学会であるTAT12にて、弊社取締役の中野が米国DoE(エネルギー省)・欧州COST-NOAR(アスタチン創薬を目指す欧州の主要プレイヤーが参画するネットワーク)の代表者と登壇し、WACの組成を宣言しました。その後も23年5月のCOST-NOARミーティング、24年3月の7th

Theranostics World

Congressにてアルファフュージョンは事業の進展を発表し、進んだアスタチン研究の実績をもとにWACの議論をリードしてきました。

TAT12(23年3月)におけるWorld Astatine Community組成発表

今回の事業説明会において、住友重機械 産業機器事業部の滝

和也氏は、「アスタチンの不足で創薬を遅らせない」というスローガンを打ち出し、基礎研究・治験に必要な量のアスタチン-211を提供していく同社の方針を語りました。具体的には、2026年中に世界で最も大量のアスタチンを製造可能なサイクロトロン加速器をTATサイクロトロン棟に導入する計画を発表しました。また、国内にとどまらず、世界でもアスタチン-211の普及を目指していく方針です。

既に大阪大学医学部附属病院にて、難治性分化型甲状腺がんに対するアスタチン化ナトリウム([At-211]NaAt)の治験が2021年11月から開始されており*2、2024年6月からは難治性前立腺がんに対する[At-211]PSMA-5の治験が始まります*3。アルファフュージョンは、これらの治験薬の社会実装を担う創薬スタートアップとして、大手製薬企業など国内外のプレイヤーと連携し、医薬品の承認を目指していく方針です。また、アスタチンの拡張性を活かした新薬の研究開発も積極的に進めており、アンメットメディカルニーズの高い様々ながんを治療することが期待できる医薬品候補化合物を複数保有しています。

*1 Fusion Pharmaceutical presentation at IAEA International Symposium (2023)

*2

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000091191.html

*3

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000091191.html

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