油分を極小サイズ化 水への安定配合に成功

特殊なナノエマルション製法の確立で機能性油剤の浸透性アップ

ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:片桐崇行)は、これまで難しかった化粧品でのナノエマルション製法を確立しました。本製法により、さまざまな種類の機能性油剤を、浸透性に優れた極小サイズの油滴として配合できるようになります。

* ナノエマルション着目の背景: 機能性油剤を肌に届ける

肌のケアにおいて、水分だけではなく、角層を柔軟化させるなどの機能を備えた油分、いわゆる機能性油剤も与えることが大切です。

機能性油剤を角層内などに浸透させるためのキャリアーとしては、水に極小サイズの油の乳化滴(油滴)を分散可能な水中油ナノエマルション(※1)を利用することが効果的

だと考えられます。

ナノエマルションは古くから知られており、医薬品やエネルギーといった分野で産業活用されてきました。しかし、化粧品の使用環境では、夏の高温多湿な部屋や冬の冷え切った洗面台などの温度環境で油滴が壊れてしまうといった課題があり、実用化が進んできませんでした。また、安定性を保つことができる機能性油剤の種類にも制限がありました。

※1 熱力学的に準安定状態にある、水中に200nm以下の油が分散したエマルション

* 新たな製法の確立でナノエマルションを実現: 同じ成分組成でも全く異なる結果に

本研究では界面活性剤の選定や組成の検討を行うとともに、過去の研究知見(※2)をヒントに、ナノエマルションが製剤となるまでの液中の状態に着目しました。実は、同じ成分組成でも、温度や混ぜ方によって液中の状態が変化し、製剤の状態が異なる場合があります。これを巧みに利用し、製造ステップを厳密にコントロールし

「バイコンティニアスマイクロエマルション相」という特殊な状態を経由させることで、化粧品に適した独自の高浸透ナノエマルション製法を完成

させました(補足資料1)。本製法は、さまざまな油剤をわずか数十nm程度の小さな油滴として水中に分散することが可能であり、しかも幅広い温度にさらされても安定であることが確認できています。

次に、開発したナノエマルションによる機能性油剤の浸透性を検証しました。油分を赤く染色したナノエマルションのサンプルを培養3次元皮膚モデルに塗布し、同じ組成で作られた一般的な乳化タイプの製剤と比較しました。その結果、ナノエマルションタイプは乳化タイプと比べ、染色領域が広く、

機能性油剤の浸透性が格段に向上していることが確認できました(図1)。

※2 第12回アジア化粧品技術者会研究発表会 リリース(2015年4月23日)

https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20150423.pdf

* 使用実感: 100%が浸透感ありと評価

ナノエマルションを採用した開発品について実使用での実感を検証すると、専門評価者11名全員が「浸透感あり」、さらに9割以上が「保湿実感あり」

と判定しました(補足資料2)。「バイコンティニアスマイクロエマルション相」という特殊な状態を経由させて、油滴を極小の状態で安定に配合できたことが優れた実感につながったものと考えています。

ポーラ化成工業では今後も、お客様のニーズに応える新技術の開発を行っていきます。

* 【補足資料1】 バイコンティニアスマイクロエマルション相とは?

バイコンティニアスマイクロエマルション相とは、界面活性剤によって作られる水と油の層が3次元的に入り組んだ構造で両連続になっている特殊な相状態です。界面活性剤の油や水への溶存状態は温度や共存する成分によって大きく変化するため、作製時の加熱や原料の投入順序を厳密にコントロールすることで、一時的にこの特殊な相状態を生成することができます(図2)。

* 【補足資料2】 開発品の実使用テスト結果

20~50代の専門評価者11名が、2日間にわたって開発品を使って評価した結果を以下に示します。目標としていた「浸透感」に関しては評価者の100%が感じることができ、さらに「保湿実感」は96%近くが感じるとの結果が得られました。つまり、今回確立したナノエマルション製法で機能性油剤を配合することで、浸透性が向上すると同時に、肌の保湿感も高まることが示唆されました(図3)。