自然と共に生きる喜び」白糠町で農家としての新たな一歩

田中農園 田中詠悟さん

海と山が広がる豊かな自然に囲まれた白糠町は、食材の豊富さが魅力の町。そんな町に、農業への夢を抱いて移住してきた若者がいます。彼の名は田中詠悟さん。全く縁のなかったこの地で、無農薬・有機栽培にこだわりながら、大豆を中心とした農作物を育てています。除草剤を使用しない中での除草作業のスキルアップが功を奏し、今年の収穫は昨年比の2倍以上を見込んでいます。田中さんがどのようにしてこの町を選び、夢を叶えていったのか、その裏にあるストーリーを伺いました。

白糠町note:

https://note.com/_shiranukacho/

音楽好きが農業の道へ 田中農園ができるまで

畑になる前の様子。一面草だらけで、これが畑になるとはなかなか想像がつきませんが、この土地がすべての始まりです。(画像提供:田中さん)

田中:2022年の4月に札幌市から白糠町へ移住し、農業を始めました。この畑は元々牧草地で、広さは、3.3ヘクタール。トラクターで土を起こすところからスタートしたのですが、牧草の根っこが根深すぎて、私のトラクターではどうすることもできず、結局業者の方に来ていただきました。それほど、一面草っぱらでした。

こちらが現在の様子。大豆が立派に育ち、農地に息が吹き込まれたような力強さを感じます。

現在この畑で栽培しているのは、大豆、じゃがいも、きゅうり、トマトですが、ほぼ大豆です。大豆の品種は「トヨムスメ」と「とよみづき」。若干生育の早い「早生(わせ)」の品種です。「早生」と「晩生(おくて)」があるのですが、作業的なことや色々な兼ね合いもあり、「早生」と「晩生」の品種を合わせて栽培しています。

私は元々音楽が好きで、ギターメーカーが運営している養成機関を卒業しました。楽器製作について学び、もちろんその道に進む予定でしたが、リーマンショックの影響で就職が困難な状況に陥りました。しばらくフリーターの時期がありつつも、無事に和洋菓子を取り扱うお菓子会社へ就職が決まり、毎日どら焼きを作りながら「自分はやはり物を作ることが好きだ」と確信しました。

そもそも私は、農業に魅力を感じていました。人間が生きていくために絶対に必要なものを自分の手で生産し、それを売って生計を立てる……それは、とても素晴らしい生き方だと思います。自分の好きな“ものづくり”の延長線上に農業があることに気づき、会社を退職。農家を目指すことになったのです。

新規就農者支援の手厚さと、柔軟な対応。白糠町だけが自分を受け入れてくれた

作業中の田中さん。「一日一日、大豆が育っていく過程を見ていくことが幸せであり楽しみ」と語ります。

田中:私と白糠町の出会いは、『農業フェア』です。各市町村が集まり、その土地での農業について色々な説明を受けることができるのですが、「農地を貸してほしい」という要望を各ブースで伝えて回りました。農地の交渉というのは非常に難しいうえに、貸してもらえたとしても、必ずその土地で研修を受けなければなりません。そのとき私はすでに北海道の南幌町で研修を終えていましたが、やはり“人となり”などが分からないと農地は貸せないということで、ほぼすべてのブースで断られてしまったのです。そんなときに、唯一受け入れてくれたのが白糠町でした。白糠町も離農者が増えていて、農地が手つかずになってしまうという問題を抱えていたようで、私と白糠町の思いがマッチした瞬間でした。

新たに農業を開始するにあたって、「白糠町新規就農者支援事業

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」という支援制度があり、これが非常に手厚く驚きました。同時に、白糠町で農業を始めることに対し、迷いは消えました。

具体的には、農地取得に加えて、農業経営に必要となる施設設備、農業機械などの購入・鹿柵設置などの経費に対しての助成に、経営の安定を図るために最大5年間、国の交付金に上乗せしてして助成してくれます。さらには家賃助成もあり、農業をスタートさせてから、安定するまで見守ってくれるのです。これは、他の自治体とはかなり大きな違いがあると思います。仮に、金銭的な助成がなかったとしても農地交渉ができたのは白糠町だけなので、私にとって運命の場所であったとも言えます。

もちろん改めて研修を受けることも可能であり、役場の方々が親身で柔軟に対応してくださった結果、今があります。全国でも農地を余しているところはたくさんあると思うので、白糠町のように新規就農者に対してもっと間口が広がることを願っています。

「無農薬・有機栽培にこだわり続けたい」田中さんが作る大豆とは

田中さんが栽培している大豆。有機栽培・無農薬にこだわり、”食べた人が健康になる作物づくり”を目指しています。

田中:研修先だった南幌町の農家さんが、ものすごく有機栽培にこだわって何十年に渡ってお米と大豆を栽培していました。その方に出会ったことをきっかけに、自分もいろいろ調べるようになり、「大豆を有機栽培してみたい」という想いが強くなっていきました。大豆栽培は比較的ハードルの低い作物であり、私も大豆が大好きということも大きな理由です。

ニオ積みの様子。見た目はなんだか可愛らしいのですが手間暇がかかる作業のため、現在ニオ積みを行う農家は少ないそうです。(画像提供:田中さん)

やはり、無農薬にこだわっていますので、安心・安全にお召し上がりいただけるということが一番の特長でもありますが、昔ながらの農家さんが行っている「ニオ積み」という収穫方法を取り入れていることも、他の方との違いかなと思います。

「ニオ積み」とは、まず大豆を刈り倒しパレットの上に積んで山のようにしていき、そのまま数週間自然乾燥させます。そうすることによって、豆の栄養や旨みがギュッと凝縮されておいしい大豆ができあがります。昔の農家さんはこの方法を取り入れていましたが、かなりの重労働になるため、今は刈り取りと脱穀が同時にできるコンバインという機械で行っている方が大半だと思います。

去年(2023年)の様子。どれが大豆でどれが雑草かがわからないくらい草が生い茂っています。(画像提供:田中さん)

無農薬での栽培で、苦労することの一つが除草。当然、除草剤を使用していないので雑草がかなり生えてきます。そうなると大豆に栄養が行かなくなったり、日光が当たりにくくなったりするため、除草対策が重要になってきます。

今年(2024年)の畑の様子。除草対策を学んだ結果、収穫量が去年の倍以上に伸びたそうで、無農薬栽培における除草が、いかに高い壁になるかがわかります。

実は今年、専門的な知識を持つ北海道十勝の音更(おとふけ)町の農家さんにご指導いただき、きれいに栽培できました。その結果、去年おととしに比べて、倍以上の収穫量を見込んでいます。すべて一人でやっているので、収穫量が増えると必然的に機械の導入なども視野に入れていくことになりますが、今後も、最大限味へのこだわりを持って栽培していきたいと考えています。

ふるさと納税の返礼品にも、私の栽培した大豆があります。おすすめの調理法としては、炒り豆。大豆を水で戻して、フライパンで炒って塩などで味付けして食べる。シンプルでとてもおいしいです。色々野菜など具材を入れて煮豆なんかもおいしいと思います。豆腐や味噌にも適した品種なので、思い切ってチャレンジしてみるのもいいかもしれませんね。

指針となる有機・無農薬にはこだわり続け、新たな夢へ

現在整備中の新たな土地で。頭の中にはチャレンジしたいことがたくさんあるようで、今後の田中さんの活躍に期待が高まります。

田中:農薬を使えば、雑草や害虫に悩まされることもなくなりますが、私はずっと有機・無農薬にこだわり続けて大豆を作っていきたいです。今の畑から少し下がったところにも牧草地が広がっているのですが、ここも畑にするため少しずつ整備しており、完成すれば2ヘクタールほど農地が広がります。まだ細かなことは何も決めていませんが、現状粒の大きな大豆だけ栽培しているので、小粒大豆やあずきにもチャレンジしてみようと思っています。小粒大豆には害虫に強いメリットがあるようで、そういったことも栽培しながら実際に学んでいきたいと思っています。枝豆なんかもやれたら楽しくなるなぁと、今からワクワクしています。

大好きな景色が広がり、人のやさしさが染みる町

まっすぐな視線で、「毎日楽しい」と語る田中さん。絵はがきのようなこの美しい景色は、田中さんの支えとなっていることでしょう。

田中:白糠町はとにかく自然が豊富で、この畑での毎日はとても気持ちがよく、楽しいです。人工的なものが全くなく、見渡すかぎりの大自然。私は、この風景が大好きでとても気に入っています。そしてなんといっても、人がやさしい。私は札幌市出身で、特に身よりがあるわけでもない白糠町へ単身でやって来たのですが、皆さんすぐに受け入れてくださって親切な方が多いです。私と同じように新規就農で白糠町に移住した方たちや、近隣の農家さんとも交流もあり、白糠町には一人で来ましたが、今となっては仲間もできました。もし農業をやりたいと悩んでいる人がいれば、ぜひ白糠町に来てチャレンジしてみては?と背中を押したい気持ちでいます。

お問い合わせ及び事業者情報

田中農園

住所:白糠郡白糠町庶路基線205番2

代表:田中 詠悟

ふるさと納税サイト:

https://item.rakuten.co.jp/f016683-shiranuka/016683-0909/

■北海道白糠町のご紹介

北海道白糠町は北海道の東部に位置する人口約7,100人のまちです。

豊かな自然に恵まれ漁業、林業、酪農などが盛んです。太平洋沖の暖流と寒流が交わる絶好の漁場にあり、1年を通じて様々な海産物が獲れ、茶路川、庶路川、音別川と鮭が産卵に帰ってくる川が3本もある恵まれた立地から「秋鮭」「いくら」の漁獲量が高く、ふるさと納税の返礼品としても高い人気を誇っています。近年は「ブリ」の漁獲量が増え、「極寒ぶり(TM)」として新たな名産品の一つになっています。

白糠町ホームページ:

https://www.town.shiranuka.lg.jp/

白糠町公式note : https://note.com/_shiranukacho/

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