新型コロナウイルスの流行下におけるビタミンD不足に警鐘!
~プロサッカー選手の血液データ解析から得られたこと~ 順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科の齋田良知 准教授は、
アスリートのコンディショニング維持とパフォーマンスの向上を目的として、 プロサッカー選手の血液データの解析を行っており、
今年の血中のビタミンD値を解析したところ、 例年に比べて大幅に低くなっていることを確認しました。 この結果は、
新型コロナウイルスの流行下の緊急事態宣言による野外トレーニングの制限が要因として考えられるため、
アスリートのみならず一般の方々にも当てはまることが予想されます。 ビタミンD値の低下は、
アスリートのスポーツ活動再開時の疲労骨折や肉離れの発生が増加する可能性があることから、 スポーツの指導者はこの事実を認識する必要があります。 また、
一般の方の骨折や転倒による怪我の増加につながる恐れがあることから、 ビタミンDの摂取と可能な範囲での日中屋外での活動が推奨されます。 本研究成果は科学雑誌
British Association of Sport & Exercise Medicine Journal に掲載されました。 本研究成果のポイント *
新型コロナウイルス流行下における行動様式の変化はアスリートの血中ビタミンD濃度を低下させていた
*
スポーツ活動再開時の疲労骨折や肉離れの発生が増加する恐れ
*
外出の自粛によりビタミンDが低下し骨折や転倒による怪我が増加する恐れ
*
ビタミンDの摂取と可能な範囲での日中屋外での活動が推奨される
背景
ビタミンDはアスリートだけでなく一般に日本人に不足しがちなビタミンで、 食事からの摂取や日光浴により合成されます。 血中ビタミンD濃度の低下は、
疲労骨折や肉離れの発生増加と関係があるとされ、 新型コロナウイルスの流行に伴う外出自粛などの影響により、 今年は特にビタミンDが不足し、
これらの怪我の発生リスクが高くなっている恐れがあります。 日本では新型コロナウイルス流行に伴い、 2020年の4月7日に緊急事態宣言が発出され、
人々の行動制限や外出の自粛がなされました。 アスリートであるプロサッカー選手も例外ではなく、 チームトレーニングの中止に伴い、
野外トレーニングが制限されており、 日照不足による血中ビタミンD濃度の低下が危惧されました。 そこで本研究では、
シーズン中のプロサッカー選手のコンディショニング維持やパフォーマンスの向上を目的として定期的に計測している血液データのビタミンD濃度に着目し、
その濃度の推移を調べました。
内容
本研究では、 日本のプロサッカークラブに所属する男子選手(2018年23人、 2020年24人)の血中ビタミンD(25-OHD)濃度を比較しました。 その結果、
2018年シーズン開始の冬、 25-OHDは平均29.7(ng/mL)でしたが、 シーズン中の春では36.0に増加しておりました。 しかし、
2020年シーズンは冬が23.8でしたが、 緊急事態宣言後のシーズン5月では21.8と逆に減少していました。 2018年と2020年、
このクラブが活動している地域の日照時間には差はありませんでした。 2018年と20年では入れ替わっている選手も多いため、 次に、
2018年と2020年の両シーズン共にチームに所属していた7選手のみで解析をしました。 すると、 2018年が26.8(冬)⇒34.8(春)、
2020年が24.9(冬)⇒21.2(春)であり、 冬と春の25-OHD値の差は2020年で有意に低値を示しておりました。
以上の結果から、 外出やトレーニングが制限された2020年は、 屋外で競技を行うスポーツ選手のビタミンD値が例年よりも低くなっている可能性が示唆されました。
一般に、 25-OHD値が30(ng/mL)より低値であると怪我の発生リスクが高くなるといわれております。 アスリートのスポーツ活動の再開に伴い、
疲労骨折や肉離れ等の発生リスクが高まっている可能性があることから、 トレーニングの再開において注意する必要があります。 さらに、
スポーツの指導者はこの事実を認識し、 怪我を防ぐために血中ビタミンDのレベルを維持することの重要性についてアスリートと共有することが肝心です。
今後の展開
本研究で明らかになったサッカー選手の血中ビタミンD濃度の減少は、 緊急事態宣言に伴う人々の行動制限や外出の自粛が要因として考えられるため、
アスリートのみならず一般の方すべてに当てはまると言えます。 冬に向かって日照時間が短くなる時期は、
ビタミンD不足がさらに助長され骨折や転倒による怪我の発生が高くなることが危惧されます。 その予防策として、
ビタミンDの摂取と可能な範囲での日中屋外での活動が推奨されます。
図 新型コロナウイルス流行下の行動制限が血中ビタミンD値に与えた影響
2018年は、 シーズン開始よりもシーズン中の方がビタミンD値が上昇していたが、 2020年では逆に減少していた。 同時期の日照時間は同等であった。
25-OHD(25-ヒドロキシビタミンD):体内のビタミンDステータスを最も正確に反映する指標
原著論文
本研究成果は科学雑誌 British Association of Sport & Exercise Medicine Journal
に2020年10月17日付で掲載されました。
タイトル: Risk/caution of vitamin D insufficiency for quarantined athletes returning
to play after COVID-19
タイトル(日本語訳): 新型コロナウイルス流行後のアスリート運動再開時におけるビタミンD不足に対する警鐘
著者(日本語表記): Yoshitomo Saita (齋田良知) 1)2)
著者所属:1)整形外科・スポーツ診療科 2)いわきスポーツクラブ
DOI: 10.1136/bmjsem-2020-000882
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